内部統制報告制度(J-SOX)の見直し_開示すべき重要な不備
内部統制評価(J-SOX)を前向きに見直す時期が来ています。
内部統制の評価制度が導入されて十数年過ぎました。当該制度を利用し内部監査を社内に浸透させていき成果を上げている会社もあれば、その一方、制度導入時に作成された計画書や3点セットを表面上だけ更新し続け、内部監査を形骸化させていってしまっている会社もあります。
制度導入より十数年過ぎて、内部統制評価を担当した内部監査人も世代交代の時期に来ています。
次の世代の内部監査人は、これから先の内部監査に内部統制評価制度をどのように利用していくのか考える時期に来ています。
積極的に内部監査に利用していく
少なくとも省力化は図る
粛々と前例を踏襲していく
どの態度をとるも正解ですが、
制度導入後の改定で、いささか内部統制制度が骨抜きになってしまったのは事実ですが、制度は制度として残っており、社外からの外圧としての明文にもなれば、内部監査実施の道具としても使えます。この制度の利用価値は少しも損なわれていませんよ。
使い方次第で成果は大きく変わります。
遠回りのようですが、基準を読み直してみませんか。基準の範囲内であればどのようなやり方をするかはあなたが選択できるのですから
内部統制報告書制度に関する基準等の紹介
内部統制報告制度について公表されている基準は以下です。
財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する基準
財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準
内部統制報告制度に係るQ&A
内部統制報告制制度に係る事例集
実務上は、実施基準に従っていれば内部統制報告制度を遵守することができますので、以下は、実施基準に則して解説します。
Ⅱ. 財務報告に係る内部統制の評価及び報告
1.財務報告に係る内部統制の評価の意義
(1)開示すべき重要な不備の判断指針
内部統制の不備は2種類あります。
整備上の不備 :統制が存在していない、機能していない
運用上の不備 :統制が設計意図通りに運用されていない、運用誤りが多い
開示すべき重要な不備とは。
内部統制の開示すべき重要な不備とは、内部統制の不備のうち、一定の金額を上回る虚偽記載、又は質的に重要な虚偽記載をもたらす可能性が高いものをいう。
重要か否かは、財務報告の利用者にあたえる影響の金額的な面及び質的な面の双方について検討を行う。
原則として連結ベースで行うので、重要な影響の水準も原則として連結財務諸表に対して判断する。
基本的には、財務報告全般に関する虚偽記載の発生可能性と影響の大きさのそれぞれから判断される。
逆に、不備とされた統制が有効に機能していたら発生が防止されている虚偽記載の大きさで、当該統制の重要度がわかります。
金額的重要性 ×質的重要性×虚偽記載の発生可能性
a. 金額的な重要性の判断
金額的重要性は、連結総資産、連結売上高、連結税引前利益などに対する比率で判断する。これらの比率は画一的に適用するのではなく、会社の業種、規模、特性など、会社の状況に応じて適切に用いる必要がある。
当年度実績値のみならず、過去平均値も可
連結税引前利益については、概ねその5%程度とすることが考えられるが、最終的には、財務諸表監査における金額的重要性との関連に留意する必要がある。
負の値になったり、臨時的要因で金額が小さくなった場合は、再検討もありえる。
b. 質的な重要性の判断
質的な重要性は、例えば、上場廃止基準や財務制限条項に関わる記載事項などが投資判断に与える影響の程度や、関連当事者との取引や大株主の状況に関する記載事項などが財務報告の信頼性に与える影響の程度で判断する。
c.虚偽記載の発生可能性の判断
当該不備により、虚偽記載が発生する可能性のことです。
例えば、内部統制の対象としている取引や処理が定常的に行われているか、非定常的に行われているかで変わります。
例えば、財務報告プロセスでの不備は、虚偽記載の発生可能性が高いと言えます。
開示すべき重要な不備に該当するか否かの判断(実務上)
具体的な方法は、実施期基準等の基準には記載されていませんが、内部統制に不備があるだけでは、開示すべき重要な不備には該当しません。内部統制の不備を単体又は複数合わせて、全体として重要な影響を与えているかを検討しなおして開示すべき重要な不備に該当するか判断します。
実務では、下記のようなスコアリングと総合的判断を組み合わせて判断過程を説明することが多いと思います。
① 金額的重要性 ×質的重要性×虚偽記載の発生可能性 というスコアリング(例えば、3+3+3=9点で重要性高い)
② スコアリングでの結果に、総合的判断を加えます。
開示すべき重要な不備の事例と質的重要性の判断について、下記リンク先に記載しています。
⇒内部統制報告制度(J-SOX)_開示すべき重要な不備の事例_質的重要性の判断基準は?
金額的な重要性の基準値
金額的な重要性の基準値ついては、実施基準において、以下のような記載があります。
連結税引前利益については、概ねその5%程度とすることが考えられるが、最終的には、財務諸表監査における金額的重要性との関連に留意する必要がある。
1)税引き前利益の5%ってどこからきたの?
理論的な根拠はしめされていません。この記載例があることが、実務での税引前利益の5%を採用する根拠になっています。
2)金額的な重要性の基準値は、自社で決められないの?
本来的には自社で決定できます。ただ、事実上の意味で言うなら、最終的に監査法人との同意が必須です。
監査法人は財務諸表監査では、財務諸表監査での重要性の基準値を決めることが必要となっています(監査手続上必須)。
この重要性の基準値の金額を超える虚偽表示がある場合、監査法人は財務諸表監査を適正とは言えません。
同様に、内部統制監査においても、この重要性の基準値を超える虚偽表示を発生させる可能性のある内部統制の不備がある状態を、開示すべき重要な不備が無いとは評価することはできません。
自社で決めた重要性の基準値が、監査法人の重要性の基準値と異なると、監査法人との見解が分かれることになるので、監査法人と事前に協議しておくことが望まれます
3)監査法人は金額的な重要性の基準値はどのように決めているの?
税引前利益の何%が原則になりますが、税引前利益も予算であったり、数期間の平均であったりします。また、売上高や総資産の何%にて求めることがあります。監査法人ごとに決め方は少しづつ違いますが大きくは異なっていません。監査法人ごとの決め方の中で、監査人が独自判断により決めます。
ちなみに、重要性の基準値は常に見直し検討しなければなりません。当初の段階と期末監査の段階で異なることがあります。例えば当初は期初計画に基づいて重要性の基準値を算定していたとして、期末実績が大きく期初計画を下回った場合、下回った実績に基づいて、重要性の基準値を算定しなおします。
内部統制の不備は期末日までに是正すればいい
開示すべき重要な不備があるかの判断は、内部統制の不備の発見時ではなく、期末日時点で判断されます。期中に発見された不備が期末日までに是正された場合、当該不備はないものとして判断されます。
軽微な不備
実務経験上、全体として重要な影響を与えないであろう内部統制の不備については、軽微な不備として区別し、当期は指摘にとどまり、今後の改善課題として次期以降に改善活動を実施するということをやっていました。
逆に明らかに全体として重要な影響を与えそうな内部統制の不備については、期末日までに是正ができるか急いで検討します。
補完統制を探す
また、内部統制の不備が見つかった場合、補完的統制がないか探します。内部統制は重要な虚偽表示が生じることを通常複数の統制をもって防いでいます。そのため、どれかの統制で不備があったとしても、別の統制により重要な虚偽表示の発生が防がれているることがよくあります。
このようにある内部統制の不備を補って防いでいてくれている統制を補完的統制と位置づけ、補完的統制が有効に機能しているときは、発見された内部統制の不備は軽微な不備として扱います。
※内部統制報告制度Q&Aの(問41【開示すべき重要な不備の判断(補完統制)】)も参照
「ちょっと聞いてみたいだけ」も歓迎します。
「ちょっと聞いてみたいだけなんだけど」と当方へご連絡しずらい方は、下記のページから私とメールにて雑談を始めてみませんか。匿名やニックネームで結構です、メールアドレスのみ教えていただいたら、できる範囲でご回答いたします。
※会計や内部統制、内部管理、監査については話せると思います。当方会計監査及び内部統制監査に10年以上携わっている公認会計士です。
当方は、京都を中心に個人で活動している公認会計士です。
個人で活動している会計士は珍しいと思います。
興味を持たれましたらメインページもご参照ください。
他にも情報提供しているブログのリンクまとめも載せてます。
メインページ:IPO準備の準備