内部統制報告制度(J-SOX)の見直し_基準の解説(評価の意義、評価範囲の決定方法、評価方法)

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内部統制報告制度(J-SOX)とは、

要するに、内部統制報告制度(J-SOX)は、「財務報告(例、有価証券報告書)にとても重大な虚偽記載が起こってしまうような内部統制の不備はありません」と、自社で評価して、企業の外部者に報告してくださいということです。



内部統制報告制度(J-SOX)の簡素化

アメリカのUS-SOXに追随する形で平成20年に導入された内部統制報告制度(J-SOX)は、その2年後には見直しが図られ、中堅・中小上場企業でも対応可能な形に大幅に簡素化されました。

これにより、制度運用が形骸化した企業もある一方で、企業独自創意工夫により内部統制報告制度を使いこなし継続的な内部統制の改善を実現している企業もあります。


内部統制報告制度(J-SOX)に使われるか、使いこなすか

内部統制報告制度は、金融庁・企業会計審議会が定めた制度である以上、上場会社はこの制度を遵守し、内部統制報告書を作成、公表しなければなりません。

ここで、

  1. 内部統制報告制度を必要悪ととらえ、なるべく変化せず、最低限のコストで乗り切ることを目的とするのも一つの方法。

  2. お上の威光を利用しながら、社長にすら意見しながら、会社全体の改善を図ることを目的とするのも一つの方法。

いずれの方法も内部統制報告制度を通じて会社に付加価値をもたらそうしています。

対して、ただただ、何の目的も持たずに、前任者のやってたことをなぞるだけでは、なんの価値も生み出しません。


付加価値を生むための第一歩として、内部統制報告書の基準を理解しなおすことから始めましょう。

私はこの制度の導入時より関わっている会計士です。ちょっと最近、内部統制報告制度の制度趣旨や基準についての理解がぼやけてきているなと感じています。ここらで、実務経験とあわせて、基準の見直しをしてみようかと思っています。


内部統制報告制度に関わる基準

  • 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)平成23年3月30日改/令和元年12月30日改 企業会計審議会

  • 内部統制報告制度に関するQ&A 平成23年3月31日改訂 金融庁総務企画課

  • 「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」平成23年3月30日改/2019年7月5日改 日本公認会計士協会


令和元年12月30日に上記のように改訂がありましたが、改訂の主な改訂点は内部統制監査報告書の「記載区分」でだけなので、公認会計士以外にはあまり関係ありません。会社や内部監査人にとっては、改訂の影響はありません。気になる方は下記のリンク先で新旧対象表に目を通してみてください。

金融庁のニュース:https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20191213.html



まずは、基準から解説します。内部統制報告制度の全体像をざっくりつかんでください。

<財務報告に係る内部統制の評価及び報告に係る監査の基準>

1.財務報告に係る内部統制の評価の意義

経営者は、内部統制を整備及び運用する役割と責任を有している。特に、財務報告の信頼性を確保するため、「内部統制の基本的枠組み」において示された内部統制のうち、財務報告に係る内部統制については、一般に公正妥当と認められる内部統制の評価の基準に準拠して、その有効性を自ら評価しその結果を外部に向けて報告することが求められる。

要点は以下

評価対象範囲は、財務報告に係る内部統制に限られている

・一般に公正妥当と認められる内部統制の評価の基準

・有効とは開示すべき不備がないこと

・開示すべき不備とは、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備

・自ら整備運用し、自ら評価して、外部に報告

これが内部統制報告制度の意義です。

要するに、内部統制報告制度(J-SOX)は財務報告(例、有価証券報告書)にとても重大な虚偽記載が起こってしまうような内部統制の不備はありませんと、自分で評価して、外部に報告してくださいということです。

内部統制のうち、財務報告に係る部分に限定されています。一方で、従うべき基準があります。


2.財務報告に係る内部統制の評価範囲と決定方法

(1)財務報告に係る内部統制の有効性の評価

・評価に先立って、内部統制の整備運用状況について記録し保存の義務あり

・評価範囲は、原則として連結ベース。外部委託もその範囲に含む

(2)評価範囲の決定方法

・評価範囲の決定方法及び根拠等は記録しなければならない

・評価範囲は、重要性(金額と質の両面)から合理的に決定する


ここでは、評価範囲の決定は、重要性にもとづいて決定するということが出てきます。この重要性の概念は非常に重要で、今後、重要な事業拠点や、評価対象プロセスの絞り込みに重要な影響を与えます。結果、内部統制評価の効率性、コストに大きな影響を与えます。

ここに重要性とは、財務諸表の表示や開示に際して、重要な虚偽表示を発生させる可能性と読替えることができます。財務報告に係る内部統制を評価しているのですから、財務報告への影響の観点から評価範囲を検討することになります。

要するに、この統制に不備があれば、重要な虚偽表示が発生してもおかしくないという統制に該当するかどうかにより評価範囲が決まります。


参考に、財務報告での重要性は、虚偽表示に対してのもので、当該虚偽表示が投資家の意思決定に与える影響と言い換えることができます。

重要性な金額的な重要性と質的な重要性に分かれ、金額的重要性は、単純に虚偽表示の金額的大きさです。質的重要性は、金額は小さいか、無くても、その記載が誤っていれば、投資家の意思決定に影響を与えるような虚偽表示かどうかです。

金額的重要性もしくは質的重要性のどちらかが高い虚偽表示は重要な虚偽表示に該当します。



3.財務報告に係る内部統制の評価の方法

(2)経営者による内部統制の評価

・経営者は、有効な内部統制の整備及び運用の責任を負う

・期末日が評価時点

・リスク評価が必要

(2)全社的な内部統制の評価

・全社的な内部統制の整備運用状況の評価をする

・全社的な内部統制の評価の結果が、業務プロセスに係る内部統制の評価に及ぼす影響の程度を評価をする

(3)業務プロセスに係る内部統制の評価

・統制上の要点(キーコントロール)を選定、評価する

・上記により、内部統制の基本的要素が機能しているか評価する

(4)内部統制の有効性の判断

・統制上の要点(キーコントロール)の不備の財務報告全体に対する影響を判断


3段階の評価+有効性の判断

評価作業過程は、リスク評価、全社的内部統制の評価、業務プロセス統制に対する評価といった3段構造になっています。当該評価を受けて、統制上の要点(キーコントロール)に対する不備を金額と質の両面で検討して、開示すべき重要な不備に該当するかを判断します。


(5)内部統制の開示すべき重要な不備の是正

開示すべき重要な不備が発見された場合であっても、それが報告書における評価時点(期末日)までに是正されていれば、財務報告に係る内部統制は有効であると認めることができる。


不備の是正を認める点が、内部統制報告制度(J-SOX)のユニークで、優れた点です。

評価時点は期末日とされていますが、実際に内部統制の評価手続きはもっと早く行います。例えば、リスク評価は4月ごろ、全社的内部統制の評価は6月ごろ、業務プロセス統制の評価は7月から2月+4月、有効性の判断は4月いったように、内部統制の評価手続き年間を通じて期末日以前に行われるので、重要な不備を是正する時間が取れます。

開示すべき重要な不備があるなどと公表すると大ごとですから、不備が出ても是正が可能なように評価手続きのスケジュールを組むのが通常です。

また、これはおかしなことではなく、もともと、健全な内部統制の整備運用を目指す制度の趣旨にあった対応になります。



(7) 評価手続等の記録及び保存

記録し保存しなければならない。

・財務報告に係る内部統制の有効性の評価手続及びその評価結果

・発見した不備及びその是正措置

監査法人の監査を受けること、このように基準に明記していあることから、内部統制の過程は記録保存が必要です。

一般的には以下ぐらいは必要になります。

・内部統制評価基本方針書

・リスク評価シート

・全社的な内部統制評価書

・業務プロセス統制評価書(サンプルテスト結果シートや関連証憑含む)

・内部統制有効性判断シート

・内部統制評価結果

・内部統制評価報告書

監査法人の監査を受けやすい形にファイリング等整理整頓しておくといろいろ便利です。


記録の保存(5年+関連証憑も)

財務報告に係る内部統制について作成した記録の保存の範囲・方法・期間は、諸法令との関係を考慮して、企業において適切に判断されることとなるが、金融商品取引法上は、有価証券報告書及びその添付書類の縦覧期間(5年)を勘案して、それと同程度の期間、適切な範囲及び方法(磁気媒体、紙又はフィルム等のほか必要に応じて適時に可視化することができる方法)により保存することが考えられる。

記録・保存に当たっては、後日、第三者による検証が可能となるよう、関連する証拠書類を適切に保存する必要がある。

当方は、京都を中心に個人で活動している公認会計士です。

個人で活動している会計士は珍しいと思います。

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