内部統制報告制度(J-SOX)の見直し_開示すべき重要な不備の事例_質的な重要性の判断基準
開示すべき重要な不備の定義
内部統制の不備のうち、金額的または質的に重要な虚偽記載を発生させる可能性のある不備を開示すべき重要な不備と言います。
開示すべき重要な不備があった場合、経営者は内部統制報告書にその旨を記載し、企業外部一般に報告しなければなりません。
開示すべき重要な不備の判断基準
金額的重要性と質的重要性。
金額的重要性については、連結税引き前利益の5%というように目安が明らかになっていますが、質的重要性は財務報告の信頼性への影響の程度とかなり判断に専門性が必要となってきています。
さらに、内部統制評価基準では、財務諸表監査の重要性の判断基準も斟酌しろと記載されています。これは財務諸表監査を担当している監査法人がどのように考えているかに影響されるということであり、自社内だけで判断してはいけないのかと違和感を感じる記述です。
この重要性、特に質的重要性は高度な監査の専門性を要します。
参考として、財務諸表監査に携わっている公認会計士の私から、会計士の視点も交えて解説したいと思います。
財務諸表監査の重要性
財務諸表監査では財務諸表の利用者の意思決定に判断を与える程度で、虚偽記載が重要であるかどうかを判断します。
財務諸表監査でも、金額的重要性と質的重要性の両面を斟酌して、通常の(?)虚偽記載が、重要な虚偽記載であるかどうかを判断します。
金額的重要性は、利益や総資産といった財務数値から導き出します。これについては各監査法人ごとの計算方法があるのですが、一般に、税引き前利益の5%が基本になっています。
質的重要性は、会計専門家の専門的判断という説明しがたいもので判断します。これは監査実務の中で事例で学んでいくことになります。一一般的視点としては、その虚偽記載の財務諸表の利用者(一般投資家)の意思決定に影響する程度が大きいかどうかで判断します。
開示すべき重要な不備の事例の説明(公表済みの内部統制報告書より)
上記のように、金額的な重要性はともかく、質的な重要性の判断基準は高度な判断を伴います、質的な重要性の具体的な適用については、基準の趣旨や他の事例より学び取っていくしかありません。
そこで、質的重要性の判断の参考となるように、結果としてどのような現象(事実)が見られたら重要と判断されているのか、実際の内部統制報告書より例示いたします。
下記は実際に企業が内部統制報告書にて、開示すべき重要な不備として開示した事例です。
経営者の指示による売上架空計上
代表取締役による臨時株主総会の開催中止、取締役会が代表取締役に支配されてて機能不全
取締役の親族会社との関連当事者取引を把握、開示できなかった。
架空売上取引、架空仕入れ取引、資金循環取引
売上高の先行計上、工事原価の他の工事への付替えの見逃し。
監査法人からのIT全社統制の不備の指摘を改善できていない。
子会社での架空売上計上
子会社での不正融資
内部通報で判明した海外子会社の費用過少計上
製造部門の課長と担当者が共謀しての加工原価の付替え
子会社の購買不正取引
子会社社長による私的資金流用を防止できなかった。建設仮勘定の架空過大計上。
上記に挙げられている現象であれば、確かに不備の質的重要性も高いなと感じます。
内部統制の整備運用責任を負うはずの経営者自身が関与。
売上や原価を意図的にごまかしており、関係者に業績を誤解させる意思があることがわかる
取締役会によるガバナンスの機能不全
会社の利益を害する利益相反取引
上記には上がっていませんが、下記のように、そもそも財務報告の信頼性確保の要件を欠く場合も質的に重要な不備と言えます。
経理人材の人員及び能力不足の放置
内部統制監査の人員不足等の放置
内部統制の不備の判断基準は?
明確で形式的な判断基準はありません。なぜなら、財務報告に係る内部統制は、財務報告のエラー(虚偽記載)が起らない限り、現状で有効に機能していると推定されてしまうからです。また、内部統制は一つの統制だけではなく、複数の投資が組み合わさって有効に機能しているので、一つの統制の不足というだけでは不備になるとは限らないからです。
で、監査人の立場からすると下記の三つの場合に内部統制の不備を指摘しやすいです。
①「この会社の社風や、人員配置、業種からすると、この統制はあるべきだけど、無いな。」というときで、対象部門や内部監査人も「確かにあるべきだ」と同意してくれた時
②ミスや不正が起こった時に、この統制があれば防げたのにという事後的な統制不足判明時
③財務報告に近しい経理部門の統制の不足や能力不足、人員不足
①については、監査担当者や評価者がどれだけ内部管理について詳しいかで指摘のレベルが変わってきます。監査実施者は相当な実務経験者が望ましいとされる所以です。
②については後出しじゃんけんですから、誰でも指摘できます。
③の経理部門の統制不足や能力不足は、財務報告に対して一番川下工程であり、ここが間違うと即財務報告が間違うので、間違いを見逃しそうであればすぐに不備を指摘できます。
当方は、京都を中心に個人で活動している公認会計士です。
個人で活動している会計士は珍しいと思います。
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