内部統制報告制度(J-SOX)の見直し_評価範囲の決定

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財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準

①財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準とは、財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する基準をより詳細に説明したもので、実務ではこの実施基準に従い内部統制評価を実施します。

他に、②内部統制報告制度に係るQ&Aと、③内部統制報告制制度に係る事例集が公表されていますので合わせて読んでおく必要があります。

財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準と合わせて、この三つの基準に従えば内部統制報告制度を遵守することができます。


Ⅱ. 財務報告に係る内部統制の評価及び報告

評価範囲の決定の仕方いかんで、その後の内部統制評価の工数が大きく変わります。最低限どの程度評価範囲に入れなければならないのか、実施基準をよく読み理解し、なるべく絞り込むことが必要です。


2.財務報告に係る内部統制の評価とその範囲

(1)財務報告に係る内部統制の有効性の評価

① 連結ベースの評価範囲

「財務報告に係る内部統制の有効性の評価は、原則として連結ベースで行うものとする」とは、連結財務諸表を構成する有価証券報告書提出会社及び当該会社の子会社並びに関連会社を、財務報告に係る内部統制の評価範囲の決定手続を行う際の対象とすることをいい、以下を含む。

  • 有価証券報告書提出会社

  • 連結対象となる子会社等(組合等を含む。)

  • 持分法適用となる関連会社


(2)評価の範囲の決定

経営者は、全社的な内部統制の評価を行い、その評価結果を踏まえて、業務プロセスの評価の範囲を決定する。


<全社的な内部統制の評価の範囲>

  • 原則として、すべての事業拠点

  • 重要性が僅少である事業拠点に係るものについては評価対象としないことができる。

売上高で全体の95%に入らないような連結子会社は僅少なものとして、評価の対象からはずすといった取扱いが考えられるが、その判断は、経営者において、必要に応じて監査人と協議して行われるべきものであり、特定の比率を機械的に適用すべきものではないことに留意する。

全社的な内部統制の評価の範囲は原則として全ての事業拠点(会社等)であるが、財務報告に与える影響が僅少な会社は評価範囲から外すことができるとされています。実務上、明らかに影響の僅少な会社のみ、評価の範囲から外されています。実務上も売上高で判断するのがほとんどです。また、売上高で判断しても質的に影響が僅少とは言えない会社(例えば、経理業務を一手に引き受けているシェアードサービス会社)は評価範囲から外すことはしていません。

全社的内部統制の評価範囲から外れる会社は本当に影響がごく僅少な会社だけです。


業務プロセスに係る評価の範囲の決定>

1)全社的な観点で評価することが適切と考えれる決算・財務報告プロセス

  • 経理部門がやるような、連結会計作業や、有価証券報告書の作成作業

  • 全社的な内部統制に準じて、全社的な観点で評価する


2)上記以外の業務プロセス(上記以外の決算・財務報告プロセス含む)

① 重要な事業拠点の選定 → ② 評価対象とする業務プロセスの識別

の手順で評価範囲を決定します。


① 重要な事業拠点の選定

企業が複数の事業拠点を有する場合には、評価対象とする事業拠点を売上高等の重要性により決定する。例えば、本社を含む各事業拠点の売上高等の金額の高い拠点から合算していき、連結ベースの売上高等の一定の割合に達している事業拠点を評価の対象とする。

  • 事業拠点は、企業の実態に応じ、本社、子会社、支社、支店のほか、事業部等として識別されることがある。

  • 一定割合をどう考えるかについては、企業により事業又は業務の特性等が異なることから、一律に示すことは困難であると考えられるが、全社的な内部統制の評価が良好であれば、例えば、連結ベースの売上高等の一定割合を概ね2/3程度として事業拠点を選定することが考えられる。


連結グループのすべての業務プロセスからいきなり選定するのではなく、まず、連結グループ内の事業拠点を選定します。この場合の事業拠点は連結子会社や持ち分適用会社の会社単位であることが一般的です。選定されなかった事業拠点に含まれる業務プロセスでも、個別に評価して重要な場合には、追加で、評価対象とされることもあります。


例えば、本社を含む各事業拠点の売上高等の金額の高い拠点から合算していき、連結ベースの売上高等の一定の割合に達している事業拠点を評価の対象とする。例えば、連結ベースの売上高等の一定割合を概ね2/3程度として事業拠点を選定する。このように例示がされていますが、他によるべき基準がないため実務上この例示が評価範囲の選定の事実上の基準になっています。


積極的に、全子会社を重要な事業拠点として選定される企業もありますが、これはあまりお勧めしません。監査法人も全子会社を監査対象としなければならず、監査コストアップにつながるからです。

お勧めは、上記の売上高の2/3程度の子会社を公式に内部統制報告制度の評価の対象とし、それ以外の子会社については、内部統制報告制度外で独自に評価を実施しているという形にすることです。


この事業拠点の選定基準は、明確に方針として文書化しておいた方がいいです。

重要性が下がってきた事業拠点を評価範囲から外したり、逆に追加したりということがやりやすくなります。


② 評価対象とする業務プロセスの識別

イ.①で選定した重要な事業拠点(持分法適用となる関連会社を除く。)における、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスは、原則として、すべてを評価の対象とする。

  • 「企業の事業目的に大きく関わる勘定科目」については、(売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定はあくまで例示であり、)個別の業種、企業の置かれた環境や事業の特性等に応じて適切に判断される必要がある。


ロ.①で選定された事業拠点及びそれ以外の事業拠点について、財務報告への影響を勘案して、重要性の大きい業務プロセスについては、個別に評価対象に追加する。

a.リスクが大きい取引を行っている事業又は業務に係る業務プロセス

  • 例えば、金融取引やデリバティブ取引を行っている事業又は業務や価格変動の激しい棚卸資産を抱えている事業又は業務など)。

b.見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセス

  • 例えば、引当金や固定資産の減損損失、繰延税金資産(負債)など見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセス

c.非定型・不規則な取引など虚偽記載が発生するリスクが高いものとして、特に留意すべき業務プロセス

  • 例えば、通常の契約条件や決済方法と異なる取引、期末に集中しての取引や過年度の趨勢から見て突出した取引等非定型・不規則な取引を行っていることなどから虚偽記載の発生するリスクが高いものとして、特に留意すべき業務プロセスについては、追加的に評価対象に含めることを検討する。

d.上記その他の理由により追加的に評価対象に含める場合において、財務報告への影響の重要性を勘案して、事業又は業務の全体ではなく、特定の取引又は事象(あるいは、その中の特定の主要な業務プロセス)のみを評価対象に含めれば足りる場合には、その部分だけを評価対象に含めることで足りる。



企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセス は、企業ごとにその特性に応じて決定すればいいのですが、例示されている売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定についてはい一応検討過程を残します。

実務上、業務プロセスの選定は、勘定科目を選定してから、その科目に係る業務プロセスを選定するという順番で行われます。具体的には決算書や試算表の中から下記に該当する勘定科目を選定します。その後、当該勘定科目に係る業務プロセスを選定しています。

  • 企業の事業目的に関わる勘定科目

  • リスクの高い取引に係る勘定科目

  • 予測や見積りを伴う勘定科目

  • 非定形取引に係る勘定科目


どこまでの業務プロセスを評価対象としなければならないのか、評価対象から外していいのはどこまでか、工数削減のためには、よく理解しておくべきです。


なお、評価対象とのなるプロセスの代表例としては以下のようになります。

これを各事業拠点ごとに、どこまで評価対象に含めていくかを検討することになります。

(後から追加を言われないように、監査法人からお墨付きをとっておくことも段取りとして大事です)


全社的な内部統制

全社的な決算・財務報告プロセス

IT全般統制

業務プロセス

  • 販売(売上・売掛金)プロセス

  • 購買(仕入・買掛金)プロセス

  • 在庫(製造原価・仕掛品・製品・商品)プロセス

  • 固定資産プロセス

  • 人件費プロセス

決算・財務報告プロセス

  • 減損会計

  • 引当金(退職給付、賞与、貸倒引当金)

  • 税効果会計

当方は、京都を中心に個人で活動している公認会計士です。

個人で活動している会計士は珍しいと思います。

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