経営管理資料の作り方_IPO準備向け
◇経営管理資料は行動を促すためのもの
経営管理資料は報告するためだけの資料ではなく、行動を促すための資料です。
経営管理資料は、行動を促すまでできて、初めて役に立つ資料になります。
この点、実務では忘れがちになります。
◇何故、行動を促すという目的を忘れてしまうのか
それは、何を目指して行動をすればいいのかということを明確に意識していないからです。
社会に価値を提供し続けるために、企業は存続することを目指します。
そのためには『儲かっているか、資金は残せているか』ということを、常に考えて行動しなければなりません。
それは、営利企業だけでなく、非営利企業でも同じことです。
それぞれの企業の個別事情によって、経営管理資料に乗せておくべき個別の報告事項はあると思いますが、
企業の存続のために『儲かっているか、資金は残せているか』ということを、常に考えて行動させるという根底にある大きな目的を意識しておくことが大切です。
◇使いこなせる程度の経営管理資料を作りましょう
利用者の技能や理解のレベルに合わせた経営管理資料をつくりましょう。使いこなせなければ無駄なばかりか有害になることがあります。
見た目や、様式にこだわるのも大事ですが、使う人の技能や理解のレベルに合わせることが一番大事です。
◇経営管理資料(管理会計)の作り方に決まったものはありません。
『経営管理資料』は”会社の舵を取るための要となる道具”です。
この『経営管理資料』の作り方は決まってはいません。
自社で創意工夫、試行錯誤しながら、経営管理システムの一部として作り上げていくしかないのが現実です。
経営管理システムは、上手く機能させれば、経営者・経営幹部・従業員の思惑と行動の方向性を統一し、狙いどおりの成果を作れます。
組織の規模が大きくなるにしたがって、経営管理システムの必要性が高くなります。
いったん作れば完成というわけではなく、会社の状況の変化にあわせて改善していくことが必要になります。
使いやすい経営管理資料は、貴社の独自資源となり、競争優位の源泉となります。
◆『経営管理資料』は、変化していくものです。
組織規模の大きさ、事業の複雑性、経営幹部の経営習熟度により適切なものが変化していきます。ここでは、変化の状況を、フェーズ1から3まで順に説明していきます。
フェーズ1.会計情報を利用した月次決算書の導入
初期の頃は、月次決算書が『経営管理資料』の役割を果たします。
税務申告はどの会社でも必要なことなので、社内にはすでに会計情報が存在しています。まずは、この会計情報を利用することから始まります。
ただ、月次決算書を使う上で2点ほどほんの小さな進化が必要です。
①早く提供できるようになる(遅いと役立たない)
翌月5日程度で決算情報を確定させることが必要です。それより遅いと経営意思決定に使うには遅すぎるからです。
記帳代行をお願いされている会社では税理士さんにも早く決算書を作ってもらうようお願いしましょう(ただ、貴社から税理士さんに資料を渡すのも早くすることが必要になりますが)。自社で記帳している場合は、月次決算の早期化が必要になります。
②わかりやすさを確保する(経営幹部が理解できないと無駄)
決算書をそのまま見せることでは足りません。経営幹部が理解できる形、利用しやすい形に作り替えることが必要です。
具体的には、以下のようなことです。
一表にまとめる。
表示項目を減らす、くくる。
推移表や前期比較、予算対比等にして比較しやすい形にする。
『経営管理資料』は”会社の舵を取るための要となる道具”です。道具を提供するご担当は、使いやすい道具を提供することを強く意識する必要があります。
フェーズ2.標準経営管理資料の導入
当初は、月次の実績決算情報だけで管理できていた会社も、いずれ予算管理や資金繰り管理、各事業でのセグメント管理等も必要になってきます。「自社で創意工夫、試行錯誤しながら、経営管理システムの一部として作り上げていくしかないのが現実です。」とは言いましたが、最初はコンサルタントや書籍などから、一般に必要そうな資料を参考に月次管理資料として用います。
一般に使用されているモノであれば、理解も容易ですし、指導も受けやすい。また、何もないところから始めると、重要項目のモレが生じやすいので、これを防ぐことができます。
社内の経営幹部が慣れるまでは、テンプレートやサンプルの利用も有効な手段だと言えます。
そして、慣れてきた段階で自社用にアレンジしていくことになります。
標準的な経営管理資料の例としては下記のものがあげられます、
①月次予算実績比較損益計算書【全社要約版】
②月次実績比較貸借対照表【全社要約版】
③当月売上分析表
④当月売上原価、製造原価分析表
⑤販売費及び一般管理費科目別明細表
⑥資金繰り表
⑦資金繰り実績表
私がサポートに入らせていただいた場合には、以下のモノをまず薦めます。
①貸借対照表、損益計算書【集約】
②比較損益計算書【詳細】
③月次推移損益計算書【詳細】
④月次推移貸借対照表【詳細)
⑤営業活動推移
⑥資金繰り実績表
⑦資金繰り予定表
いずれにせよポイントは以下です。
最初から完璧は目指さない(経営管理資料自体はある意味ざっくりの方が使いやすい)。
初めのころは会計情報を中心とします。
でも、資金関係の情報は重要なので、なるべく入れておくべき。
経営者や役員だからって、会計にまで明るいわけではありませんので、経営管理資料の読み方及び使い方については、しっかりとレクチャーを実施する必要があります。
数字に慣れるまでは、経営管理資料に空欄を作っておき数字を自分で書き入れるというのもよく実施されています。
分析や対応策の質疑に力を入れる。
『経営管理資料』は”会社の舵を取るための要となる道具”です。道具として活用できている状態をゴールとしてめざしましょう。
フェーズ2では、フェーズ1同様、会計情報を中心に用います。
しかし、経営管理システムやマネジメントレベルに合わせて、より会社の状況の把握、意思決定がしやすい方法に変えていきます。
経営者単独の属人的な経営から、仕組みを用いたマネジメント経営に形を変えていく段階でもあるといえます。
フェーズ3.オリジナル経営管理資料の導入
オリジナル経営管理資料では、全社的な会計情報及び資金情報だけではなく、事業別や部門別の情報も記載され、加えて、受注・売上といった営業状況や、債権回収状況、在庫の状況といった業務系の情報が直接記載されます。
また、フェーズ1やフェーズ2と比べて情報の適時性が高く求められます。
具体的には、決算情報に加えて、
受注の状況
売掛金回収状況、違算状況
買掛金の違算状況
在庫の滞留状況
異常事態や例外自体についての報告
といったより現場に近いところからの情報が付加されます。
なぜなら、現場における異常事態をより早く適時に共有し、早期対応を実現することを目的としているからです。
会計情報についても、全社ベースに整合を保ちながら、事業別、部門別に細分化されます。これは、各部長や課長レベルにまで、経営の責任を意識させるという効果を狙って行われます。
つまり、フェーズ3では、『経営管理資料』は下記の目的を持つようになります。
会計情報のみならず、業務系の情報にまで踏み込んで、異常点への早期対応を促すことに重点が移行。
細分化した情報管理で、経営者からの権限移譲に合わせて各自に責任を負担させる責任会計を実現。
◆権限移譲したなら監督する方法も同時に備えることを忘れないでください
フェーズ1から3まで説明しましたが、
たとえ『経営管理資料』がフェーズ1でとどまっていたとしても、それ自体は何ら問題のあることではありません。経営者の選択の問題です。
ただ、組織の規模が大きくなるにしたがって、権限移譲がすすみ、フェーズが進んでいくのが自然な形であると考えています。
組織規模が大きくなるにしたがって、現場への権限移譲の必要性は高まっていきます。
権限移譲したなら、それを任せっぱなしにしないで監督することも必要になってきます。
監督するには権限移譲の状況に合わせた報告の方法が必要になります。
組織規模が大きくなってきているにもかかわらず、権限移譲が進んでなかったり、監督する方法が無かったりすると、経営に相当のひずみや歪みを生みます。
こんなことが感じられないでしょうか?
経営者が抱え込みすぎてて後手を踏んでいるように感じる
経営幹部や従業員が自律的に行動していない気がする
逆に、経営幹部や従業員がバラバラに勝手に行動している
現場で起こった問題が、経営者には報告されないみたい
人は、確かに細かく指図、管理されるのは嫌がりますが、放置されたり無視されたりすることはもっと嫌がります。自社の状況に合わせた『経営管理資料』を作成し、細かく指示しなくても、自律的に行動し適度に報告するように仕向けることも大事です。
◆使える経営管理資料はPDCAが明確
取締役会資料、経営会議資料、常務会資料、月次会議資料、大企業から中小企業まで、色々な経営会議資料を見てきました。
さて、この経営会議資料ですが、「この会社、使いこなしてるな。」と感じることがあります。(同じものを見てもそれぞれ人で見解は異なると思いますので、あくまで主観です。)
どういうときだと思いますか?
資料の量や、様式、見やすさはあまり関係ありません。
記載が少ない方がいいとか、逆に詳細に多く書いてある方がいいとか、グラフや図が多い方がいいとか、あまり関係ありません。
『どういう事が行われ、どういう結果になり、どういう事をするつもりか』
が、書いてあれば、「この会社経営管理資料使いこなしているな」と感じます。言い換えると、PDCAが読み取れる資料だと「使いこなしている」と感じます。
経営管理は、『皆の思惑、行動を統一し、狙った結果を出すこと』が大事なのですから、そのツールである経営管理資料は『どういう事が行われ、どういう結果になり、どういう事をするつもりか』PDCAが明確にわかるようになっていると便利で効果的なのです。
具体的には、下記のような特徴があると思います。
事実と見解が区別されている
目標と結果が明示されている
どのように行動する予定か書いてある
常に起こることと、例外的に起こったことの記載が明確に分かれている(日常モニタリングと例外報告が区別されている)
経営リスクが明示されている(経営リスクに関連する情報がモレなく書いてある)
『経営管理資料』は経営陣によるメンテナンスがされないと陳腐化します。
この差はなぜ起こるのでしょうか?
個人的には、経営管理資料の記載項目、様式を定期的に見直していないことが原因だと思っています。
定期的に見直しが行われないと、
記載情報の過不足が放置
経営層の実力に合わない記載情報が放置
思いつきで出されたリクエストに応えすぎて記載内容が不整合
といったことが起こり、次第に使いにくい資料になります。
外部環境も変化しますが、内部経営環境も大きく変化します。そこには経営陣の経営スキルの変化もあります。
『経営管理資料』は”会社の舵を取るための要となる道具”です。
道具である限りは、使いこなしやすいよう、使うスキルをあげるとともに、使いやすくなるようにメンテナンス、小さく進化させることが大事です。
そして、定期的な見直しは使用者である経営陣がリクエストして初めて実現します。
言い換えると、経営陣が主導して実施しないと定期的な見直しはできません。
これは、経営陣が偉い偉くないのヒエラルキーの問題ではなく、資料作成者と資料利用者の問題です。
資料作成者はよかれと思って作成しているのですから、使い勝手が悪いなら悪いと資料利用者に言ってもらわないと気づかないということです。
だから、『経営管理資料』は経営陣によるメンテナンスが大事です。
さらに一工夫して『月次統制報告』
月次管理資料としては、以前以下を紹介しました。
経営管理資料の標準としては、
例えば、
①月次予算実績比較損益計算書【全社要約版】
②月次実績比較貸借対照表【全社要約版】
③当月売上分析表
④当月売上原価、製造原価分析表
⑤販売費及び一般管理費科目別明細表
⑥資金繰り表
⑦資金繰り実績表といったものが標準的に考えられます。
一工夫するとは、上記の情報に加えて、下記を加えるものです。
・資産管理の情報
・異常値報告、例外報告
月次経営管理資料に、会計情報のみならず、業務情報(資産管理、業務管理、異常値報告)を加えておくことで、現場のみで業務を完結させずに、経営者への報告を強制します。
具体的には、
月次預金残高の帳簿と通帳残高の照合結果
在庫の状況、実地棚卸の結果報告(差異分析含む)
売掛金の状況、売掛金残高確認の結果報告(差異分析)
買掛金の状況
月次での請求違算、入金違算等の違算の状況
例外報告レポート
を加えます。
この『月次統制報告』で、月次で実施すべき内部管理が実施できていることになります。