新会計基準の情報入手と対応

◆新しい会計基準についての情報入手は自分でやらないといけない

IPOの準備期間でも、上場会社になった後も、新しく公表される会計基準は自社で情報入手(キャッチアップ)することが求められます。

監査法人は会計基準を自社に適用した時に実務上解釈が分かれるようなところの相談にのってくれます。が、監査法人は会計基準や適用指針等を手取り足取りには教えてはくれませんし、会計基準等を手渡ししてくれることも通常ありません。

あくまで、新しい会計基準は、自社で入手できるようになっておくことが必要です。監査小六法は年に1回しか発行されないので、最新情報のキャッチアップには足りないことがあります(※最近は公表された会計基準で監査小六法に載る予定のものはネットで公表されるようになりました)。


最新会計情報入手の方法としていつも紹介しているのが、下記の二つです。

  • 大手監査法人(新日本監査法人ほか)のホームページ、アプリ

  • 会計専門誌(経営財務等を定期購読)


公表済みの会計基準等は下記に網羅的に記載されています。基本的に必要な会計基準等はここに載っています。

  • 監査小六法


◆新会計基準への対応を検討の7Step

①会計基準だけでなく、適用指針も読み込みます。

②会計基準等の基本的思想を理解して、すべての枝葉の検討をします。

③経理で情報が足りない場合は、該当部署に調査を依頼するか、調査に行きます。

④自社に適用すべき会計基準であれば、会計処理を検討します。

⑤会計処理に必要な情報が定常的に入手できるか検討します。

⑥実際に新しい会計処理を実施した場合の影響額を試算します

⑦②の会計基準に対する検討結果と会計処理方針を監査法人に相談し同意をとっておきます。


■会計処理に必要な情報を社内から入手できるか

新しい会計基準が導入された場合、一番気を付けなければならないのが、会計処理に必要な情報を社内から入手できるかです。もともと社内ある情報であれば大したことはありませんが、社内にはないものであれば作るなりする必要があります。必要な情報いかんでは、社内の意思決定プロセスや業務システムの改修が必要になることもあります。

また、監査法人対応として、会計基準を網羅的に検討したことを説明する必要があります。会計基準検討の一覧表等を作成して提示します(これは監査法人も監査の観点で作成するので、共有できるところは共有しましょう)。当然、今後監査を受けますので、根拠資料の提示ができるように情報入手の仕組みを作っておくことも必要になります。


◆例えば、収益認識に関する会計基準及び適用指針の導入の場合

収益認識基準は、売上という企業の基本活動にかかわる販売取引についての会計基準の改訂なので、その影響は多岐にわたることが想定されます。そのため、導入にはプロジェクトチームの組成から始める必要があると言われますが、これは、本末転倒。まずは、経理部にて小さく始めましょう。他部署の協力が必要かどうかの判断はその後!


①会計基準だけでなく、適用指針も読み込みます。

コンサルから収益認識基準の調査シートを入手して、調査開始から始めたくなる気持ちはわかりますが、どうせ収益認識基準は今後しっかりと付き合っていかなければならない超基本の会計基準等です。今後の行動を決めるためにまずはしっかり読み込みましょう。ツールを使うのは読み込んだ後です。ツールに頼るのではなく、ツールを活用しましょう。

まずは、財務会計基準

  • 企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」

  • 企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」

最近以下も追加されています。まだ公開草案であり、本決まりしてませんが読んでおくことは必要です。

・企業会計基準公開草案第66号(企業会計基準第29号の改正案)

「収益認識に関する会計基準(案)」

・企業会計基準適用指針公開草案第66号(企業会計基準適用指針第30号の改正案)

「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」

・企業会計基準公開草案第67号(企業会計基準第12号の改正案)

「四半期財務諸表に関する会計基準(案)」

・企業会計基準適用指針公開草案第67号(企業会計基準適用指針第14号の改正案)

「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針(案)」

・企業会計基準適用指針公開草案第68号(企業会計基準適用指針第19号の改正案)

「金融商品の時価等の開示に関する適用指針(案)」

収益認識基準に関しては、法人税法基本通達を読み込むことも必要

  • 収益等の計上に関する改正通達(法人税基本通達第2章第1節部分)

ついでに、消費税法や通達は何も変わっていないことに留意


②会計基準等の基本的思想を理解する。

会計基準等を読み込む時は、どうしても自社にどう関係するかということを考えながら読んでしまいますが、実はそれは遠回り。会計基準の細目へのあてはめを繰り返しても浅い対応しかできません。

まずは、会計基準等の基本的な考え方、基本思想を理解するように努めてください。今回の収益認識基準は大木です。根っこから幹を理解し、そこから伸びている枝葉を知るイメージです。会計基準は知っているか知らないかで済む枝葉の部分と理解できているかできていないかという根や幹の部分があります。

適用指針等で、個別の取引に関する解説がなされますが、必ず適用指針に解説のないような取引が出てきます。その時、別の個別の取引に関する解説を転用すればいいというものではなく、まず、根や幹の部分に戻ってから検討しないとおかしなことをしてしまいます。

もし、根や幹の理解のある人がおらず、ツール頼りで導入プロジェクトを進めてしまうと、いりもしないシステム改修をしてしまうなど、ちぐはぐな損失を会社に与えてしまいます。誰か、根や幹の部分を理解してくださいね。


③経理で情報が足りない場合は、該当部署に調査を依頼するか、調査に行きます。

よっぽどでない限り、最初は、該当部署に調査に行くようにしましょう。最初から会計基準等の理解ができていることは稀ですので、行きつ戻りつすることが予想されますし、また、いきなり現場に調査をかけても的確な調査方法を構築できていないでしょうから。


④自社に適用すべき会計基準であれば、会計処理を検討します。

最初から、会計処理を検討するための情報が漏れなく入手などできていません。③の現場調査と④の会計処理の検討は、何回も往復します。

さすがに、ここの段階に至っては、調査や検討の状況をまとめていきましょう。この段階まで来て、コンサルや監査法人から入手したツールを利用するのは有効な方法になります(自社で会計基準への準拠性の検討をまとめた一覧表の作成ができればこれが一番いい)。

また、この段階で、迷うときには、こういう風な情報があってこう会計処理しようと思っているがどう思います?と積極的に監査法人の担当者を利用しましょう。


⑤会計処理に必要な情報が定常的に入手できるか検討します。

さて、ここまでくる間に、すでに「そんな情報どこから手に入れればいい?」と何回も話題になっているはずです。新会計基準が導入される場合、一番大変なのはこの段階です。会計処理に必要な根拠情報は経理にはなく、必ず現業部門にあるからです。経理からすると他部門に情報提供のための新たな仕組みづくりをお願いしなければなりません。

ここの段階まで来て、プロジェクトチームを組成すると効果が高いです。課題やゴールは明確になっており、対応を検討することに集中していけばいいからです。ゴールを決めなければならないプロジェクトは難易度が高いので、会計基準導入検討の最初の段階からのプロジェクトチーム組成はお勧めしません。

もしかしたら、ITシステムの改修が必要になるかもしれません。ITシステムを改修するだけでなく、安定運用させるまでには相当の期間がかかります。なので、新会計基準の導入検討は早く始めた方がいいのです。


⑥実際に新しい会計処理を実施した場合の影響額を試算します

新会計基準全体の理解もないままに、個別に枝葉の部分であーだーこーだ言っているうちは、何も検討していないのと同じです。新会計基準で検討すべき項目をちゃんと表にまとめて、全体を検討していきましょう。この、とりまとめや全体マップ等の表があると新会計基準等の導入の影響額の試算が可能になります。


⑦②の会計基準に対する検討結果と会計処理方針を監査法人相談し同意をとっておきます。

さて、ここまでくれば、政治というか、手順の問題をクリアしましょう。

新会計基準の会計処理方針は決めた、情報収集方法も仕組化し、一部ITシステムの改修もする。影響額も算定し、社内での役員への説明も終わった。よし!と思っていると、監査法人からその会計処理やおかしいとの指摘。ちゃぶ台がひっくりかえされる。

こんなことはなかなかないのですが、それでも全くないわけでもありません。

個別論点の段階での相談については監査法人側もおおむねOKを出していても、論点全部を全体を見る観点から見たときに会計基準の基本的思考とずれているようであれば、監査法人側はOKを出せなくなります。

つまり、監査法人には個別論点ごとのOKだけでなく、改めて全体から見たときの検討のOKも取っておく必要があるということです。

新会計基準の導入は、場合によっては他部署の仕事の仕方を変えたり、社外への説明を必要とすることがあります。そのため、新会計基準の導入は、会計処理を決めれば終わりではなく、社内外への関係者への調整が必要となることでもあります。経理部長や財務担当役員、社長、隣の部署の部長や課長、監査法人の担当者やパートナー、関係者を漏らさず調整することが大事になります。

関係者各位への政治や、完了までの手順に注意することが必要だということを踏まえて、新会計基準の導入の後半部を乗り切りましょう。