建設仮勘定の会計処理
◆建設仮勘定って何?
会計監査に関与して10年以上、「建設仮勘定」の説明をするときに、「あれ?」ってあやふやになることがあります。この機に整理しなおしておこうと思います。
■建設仮勘定の定義
建設仮勘定とは、有形固定資産を購入や建設又は製造する際に、当該有形固定資産が本来の目的で使用できるようになるまでに行った支出や費用(製造原価)を仮に収容しておくための仮勘定です。
有形固定資産はその取得開始から移用できる状態になるまで長期になることがあることから、使用前の状況であることを明確にするために設けられた仮勘定
建設仮勘定は、当該有形固定資産が本来の目的で使用できるようになった時点で本勘定(建物や機械等)に振替られます。
◆建設仮勘定の会計処理
建設仮勘定に上げる支出や費用(製造原価)は、原則として、有形固定資産の取得原価に含まれるものと整合します。
将来的に本勘定に振りかえることが予定されているから
1)購入の場合
取得原価=購入代価+付随費用
仕訳:建設仮勘定 / 現金預金 (未払金)
2)自家建設(自己の建設、製作又は製造)の場合
取得原価=適正な原価計算基準に従って計算された製造原価※
※ 製造原価=材料費+労務費+製造経費
仕訳:建設仮勘定 / 製造原価(材料費、労務費、製造経費)
建設工事や設備工事は、長期にわたることから、建設業者や設備業者に手付金や前渡金を先に支払うことが通常あります。また、自家建設用の資材調達でも先払いすることがあります。
3)手付金を払ったり、前渡金を払った場合
有形固定資産取得に関わる事前の支出は、前払金や前渡金ではなく建設仮勘定に計上します。(会計上設備投資に係る投資活動の支出と、営業活動に係る支出を分けて開示したいから)
仕訳:建設仮勘定 / 現金預金
◆建設仮勘定にいったんあげといて、後で消耗品費・修繕費と本勘定に振りかえてもいい?
有形固定資産に係る支出をとにかくいったん建設仮勘定に上げておいて、後で費用と資産(本勘定)に分ける。有形固定資産に係る支出はとにかくいったん建設仮勘定を経由する。これはどちらも実務上よくとられている会計処理の方法です。最後の会計計上の出来上がりさえ間違ってなければ、その過程の仕訳は自社に便利なように工夫しても問題はありません。
建設や工事係る支出が費用となるのか資産となるの判断は税務上の検討も必要なため、時間がかかることがあります。そのため、本来は、有形固定資産の取得原価になるべきものだけを建設仮勘定に計上すべきですが、実務上、費用部分も含めて建設仮勘定にいったん上げることがあります。
ただ、そのような場合でも、期間損益をゆがめない観点から修繕費や消耗品費等の費用計上の時期が本来の発生時点とズレすぎないようにしておく必要があります。特に建設仮勘定の計上が長期にわたる場合や期末をまたぐ場合には注意してください。(本音を言うと月次で絞めていただきたいです)。
◆建設仮勘定は支出があった時点でしか計上してはいけない?
■建設仮勘定 / 未払金
建設仮勘定 / 未払金 という仕訳を切ってもいいのかという議論があります。特にキャッシュフロー計算書を作成する際に有形固定資産の勘定分析を実施するのですが、その際によく出てきます。このあたり、まとめてくれている権威ある専門書がないので、両者を検討の上、私見を述べさせてもらいます。
① 建設仮勘定/未払金という仕訳は切らない
建設仮勘定は仮払金としての性質が強いということ、よく出される事例が建設資金の前払いであることから、建設仮勘定の計上には常に資金の支出が伴うものとし、支出としての裏付けがないと建設仮勘定は上げないとするものです。わりと会計実務の世界では一般的に言われています。
② 建設仮勘定/未払金という仕訳は切ってもいい
ただ、①だと有形固定資産を購入ではなく、自家建設する場合、説明がつらくなります。例えば、機械設備を自作するとして、部品や資材を購入し受領した場合で後払い条件であれば、業者への未払債務がこの時点で発生しますが、支出まで建設仮勘定の計上を待ってしまうと、簿外債務と簿外資産ができてしまいます。
この不都合の影響は大きいので、建設仮勘定 / 未払金 という仕訳は切ってもいいと思います。
私見になりますが、建設仮勘定/未払金 という仕訳は切ってもいいと判断しています。
◆建設仮勘定の関連会計基準の紹介
建設仮勘定については、財務諸表等規則のガイドラインが説明しています。
財務諸表等規則・ガイドラインは有価証券報告書に含まれる財務諸表等(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書、注記、附属明細表)を作成開示する場合に守らなければならない会計基準の一つです。現場では「財規に従う」とよく言ってます。
財務諸表等規則
(有形固定資産の範囲)
第二十二条 次に掲げる資産(ただし、第一号から第八号までに掲げる資産については、営業の用に供するものに限る。)は、有形固定資産に属するものとする。
一 建物及び暖房、照明、通風等の付属設備
二 構築物(ドツク、橋、岸壁、さん橋、軌道、貯水池、坑道、煙突その他土地に定着する土木設備又は工作物をいう。以下同じ。)
三 機械及び装置並びにコンベヤー、ホイスト、起重機等の搬送設備その他の付属設備
四 船舶及び水上運搬具
五 鉄道車両、自動車その他の陸上運搬具
六 工具、器具及び備品。ただし、耐用年数一年以上のものに限る。
七 土地
八 リース資産(財務諸表提出会社がファイナンス・リース取引におけるリース物件の借主である資産であつて、当該リース物件が前各号及び第十号に掲げるものである場合に限る。)
九 建設仮勘定(第一号から第七号までに掲げる資産で営業の用に供するものを建設した場合における支出及び当該建設の目的のために充当した材料をいう。次条において同じ。)
十 その他の有形資産で流動資産又は投資たる資産に属しないもの
財務諸表等規則ガイドライン
22-9 規則第22条第9号の建設仮勘定に関しては、次の点に留意する。
1 設備の建設のために支出した手付金若しくは前渡金又は設備の建設のために取得した機械等で保管中のものは、建設仮勘定に属するものとする。
2 建設又はその他の目的に充てられる資材で、取得の際に建設に充てるものとその他の目的に充てるものとの区分が困難なものは、規則第15条第10号の貯蔵品に属するものとすることができる。
3 建設又はその他の目的に充てられる資材の購入のための前渡金で、その資材を建設に充てるものとその他の目的に充てるものとに区分することが困難である場合には、当該前渡金は規則第15条第11号の資産に属するものとすることができる。
4 建設仮勘定は、建設目的ごとに区分しないで一括して掲記するものとする。ただし、長期にわたる巨額の資産の建設については、建設目的物ごとに掲記できるものとする。
5 建設仮勘定に属するものは、規則第23条第2項の規定により、建設仮勘定の名称を用いないで、建設前渡金、その他の名称を付した科目をもって掲記することができるものとする。
22-10 山林及び植林(ただし、付属する土地を除く。)は、規則第22条第10号に掲げる資産に属するものとする。
26の2 規則第26条の2の規定は、建設仮勘定について減損損失累計額がある場合にも適用があることに留意する。
26の2-3 規則第26条の2第3項の規定に従い、減損損失累計額を減価償却累計額に合算した場合には、減価償却累計額及び減損損失累計額の科目をもって掲記することができる。この場合においては、規則第26条の2第4項の注記を要しない。
27-14 水利権、版権、著作権、映画会社の原画権、公共施設等運営事業における更新投資に係る資産等は、規則第27条第14号に掲げる資産に属するものとする。
31-6 いわゆる敷金等のうち当該契約解除の際に返還されるもの及び差入保証金(代用有価証券を含む。)で一般の取引慣行において短期間に返却されないものは、規則第31条第6号の長期資産に属するものとする。
32-1-11 当初1年を超えた後に費用となるものとして支出された前払費用について、1年内に費用となるべき部分の金額がある場合において、その金額が僅少であるものについては、当該金額を流動資産として区分しないで、規則第32条第1項第11号の長期前払費用に含めて記載することができるものとする。