会計監査対応:証憑書類等の保存体制の整備

◆帳票や証憑の整理保存体制を整備する

会計監査では社内の多くの議事録、契約書、帳票や証憑、書類、業務データなど多くの帳票の提示や提出が求められます。

スムーズに提出するには下記の3点ができていることが必要になります。経験上、これはできている会社とできていない会社に大きく分かれます。もしできていないようであれば下記を参考にしてみてください。

①証憑書類等が適切に整理保存されている

②証憑書類等が検索可能な状況になっている

③証憑書類等が適切に作成されている

下記にて解説していきます。


①証憑書類等が適切に整理保存されている

  • 整理可能な名前がついている(紙面資料綴りやexcelシート、データ、フォルダ等に)

  • 紙面資料であればファイリングされている。

  • 時系列(月別、日別)やあいうえお順等で系列整理されている。

  • 保管場所が明確に決まっている。

  • 最終版が明確にしてある(特にデータ)。

  • データについても共有フォルダ等の保管場所が明確に決まっている。

  • 保管期間や倉庫移動、廃棄の時期が明確になっている。

  • できれば、証憑書類ごとの保管担当役を決めておく。

上記のような整理保存について、会社や部としてのルールを作り明確にしておくが望ましいです(このルールは暗黙知となっていることが多いですが、可能なかぎり文書化しておくことが望ましいです)。

上記は、業務の属人化から卒業し組織的業務の効率化を進めるための方法と同じ方法でもあります。会計監査を受ける受けないと関係なく、実行すると付加価値の高い改善ができます。

まずは、紙面資料綴りやexcelシート、データ、フォルダに整理可能な名前をつけておくことから始めましょう。

excelシート名であれば、例えば下記のような形です。

・2019年3月期‗請求書綴り‗4月~5月分‗担当者名‗日付


②証憑書類等が検索可能な状況になっている

  • 会計仕訳と容易に紐づけできる(例、仕訳ナンバーを証票等に記載)

  • 取引を記録している業務データと関係証票が紐づけできている

  • 日々更新されてしまう在庫データや販売データでも、会計期末時点のデータを取り出せるようになっている

上記について補足説明です。

  • 会計ソフトでの会計仕訳ナンバー設定は月ごとではなく通年連番設定にしておくことが望ましいです。


③証憑書類等が適切に作成されている

  • 議事録を作成しましょう(取締役会が開かれていても議事録が作成されていないということがあります)。

  • 契約書を作成、保管しましょう(契約書が作成されていない、契約書があっても署名捺印がない、契約書日付の記載が漏れているといったことがあります)。

  • 記録や報告書を作成しましょう(実査や、実地棚卸を実施した過程や結果の記録等がされていなかったり、残されていなかったりすることがあります。機械設備等が稼働できるようになったという報告(稼働報告)や稼働確認なしに、減価償却が始められていることがあります)

  • 取引先からの証票をちゃんと入手しましょう(受領書や検収書、領収書等をちゃんと入手しましょう)。


◆経理処理は何らかの書類や証票に基づいて行いましょう

経理担当の方に、会計処理は必ず何らかの書類や証憑に基づいて会計処理を行い、基本的には口頭で行ってはいけません。

また、経理には、契約書や請求書、検収書等が正当性のあるものかどうかを検証する役割があることを覚えておいてください。


◆会計監査で監査法人から提示や提出が求められる主な証憑書類等の実例

監査法人の監査を受けるようになると下記のような書類や証票の提示が毎回のように求められますので、提示に手間がかからないように事前に整理整頓しておきましょう。

<社内の意思決定書類>

  • 株主総会議事録、取締役会議事録

  • 経営会議議事録

  • 監査役会議事録

  • 稟議書

<社外との取引を示す証憑>

  • 契約書( ファイリングされていることが望ましい)

  • 請求書、領収書綴り

  • 通帳、インターネットバンキングの記録、残高証明書

  • 銀行借入の返済予定表

  • 証券会社との取引報告書、残高明細

<売上の根拠となる証憑>

  • 売上根拠証憑(契約書、受注書、出荷指示書、送り状、検収書、受領書等)

<社内資産を確定させる帳票>

  • 実査記録

  • 実地棚卸記録、在庫計算台帳

  • 給与計算台帳

  • 売上データ、売掛金データ

  • 税務申告書

<会計処理、開示関連帳票>

  • 決算会計処理及び開示資料作成ための計算excelシート

  • 会計データ(試算表、総勘定元帳、仕訳)

  • 開示書類(有価証券報告書、四半期報告書、会社法の決算書等)


◆会計監査を担当する会計士にどこまで見せてもいいのか?

会計監査に必要な資料は提示すると監査契約書にも明記されており、また、会計士は法的に守秘義務を負っています。

監査人から提示が求められた資料は基本的に見せてもいいです。ただ、会計監査に必要のない情報(最終的に会計処理や開示に関係ない情報)までも見せる必要はありません。

例えば、以下です。

  • パスワード、金庫の暗証番号

  • 従業員の個人的な情報、人事情報

  • 設計情報や個別の顧客情報

ただ、訴訟の状況は開示上必要なので、提示が求められます(毎決算、しかも顧問弁護士に確認状を送ります)。

提示をためらうような資料については、監査人の言うがままに提示するのではなく、監査人に事情を話し、本当に提示が必要か都度確認をとってください。監査人も貴社の事情に配慮するのが普通です。


◆監査法人へのデータの渡し方

会計監査を受けるようになると、経理では、会計情報や計算シート等のデータを監査人に渡すようになりますが、引渡日(と時間)をフォルダ名として監査人提出用フォルダを作成すると便利です。

自動で時系列に整理できますし、同じ名前の計算シートを渡しても日付が後ろにあるフォルダに入っている方が最新の計算シートだと明確になるからです。