IPO準備向け:上場会社の「貸倒引当金」をざっくりイメージで理解する

※ IPO準備及び検討中のご担当は こちらも ⇒ IPO準備の準備

前置き:上場会社特有の財務会計の基準にとりつく前に、ざっくりとしたイメージや前提知識、実務への影響をつかんでおくと効率的

上記がこのページのコンセプトです。なので、このページでは、会計基準等についての詳細な解説は行いません。

  • 公表されている会計基準は、ある程度以上の会計の実務経験があり、昨今の財務会計のトレンドを知っている人を前提に作成されています。

  • 実務経験も前提知識もない方であれば、会計基準を読み込むにも会計基準を使いこなせるようになるにも時間がかかります。

  • 逆に、少しでも、イメージをつかんでおけば、会計基準の理解や実務での対応がスムーズに行えます。

会計監査の現場経験をもとに、上場会社レベルの財務会計を前提に記載しています。特にいきなり新たに上場会社レベルの財務会計を理解しなければならなくなった方のお役に立てれば幸いです。


会計基準の詳細な解説については、他のページを参照してください。監査法人のホームページが信頼できて説明も丁寧です。「有限責任監査法人、会計基準、企業会計」等の検索ワードで、会計基準の解説ページに当たれると思います。



法人税法上の貸倒引当金と財務会計(上場会社の会計)上の貸倒引当金は名前は同じでも全く別物だと理解してください。

IPO準備を始めた場合に最初につまづくのが、「貸倒引当金」です。

  • 名前は同ですが、法人税での貸誰引当金と財務会計(上場会社の会計)全く別物です。

  • しかも、法人税上の貸倒引当金の計上ルールも財務会計上の貸倒引当金の計上ルールも両方使いこなす必要があります。


財務会計上の貸倒引当金計上への姿勢

できるだけ資産の実態を開示するというのが財務会計上の考え方。そのような資産評価の観点から、経営者の判断により見積もりを行い、積極的に貸倒引当金を計上することが求められています。


法人税法上の貸倒引当金計上への姿勢

法人税法では、客観性や課税の公平性が重視されています。そのような観点から、納税者の判断にゆだねることを嫌い見積もり要素があり客観性を欠くような貸倒引当金の計上を認めていません。

法人税法が貸倒引当金の計上を認めているのは、実質的に貸倒損失に近似する状況の場合のみです。※

※資本金一億円以下の中小法人税等や他の法人について貸倒引当金の計上が認められていますが、これは上記の考え方の例外にあたり、政策上認められているだけです。


財務会計上と法人税法上の貸倒引当金計上への姿勢の違い

ざっくり言うと、財務会計では積極的に貸倒引当金を計上することが求められ、法人税法では貸倒引当金の計上を認めたくないという点が大きく異なります。

財務会計では経営者による企業実態の開示が重視されるので見積もり計上が必要とされています。これに対して、、法人税法では課税の公平性の確保が重視されるので、見積もり要素は極力排除されています。


この、姿勢の違いを理解されておくと、貸倒引当金の会計実務への理解が楽になります。

法人税で、法定繰入率を使って貸倒引当金の計上が認められる会社の場合(例:資本金等が1億円以下の中小法人等)


法人税法上の貸倒繰入額を損金計上したいなら、法人税法と財務会計の両方の計算をする必要があります。

  • 財務会計上の貸倒引当金と法人税法上の貸倒引当金は、その定義も計算方法も全く異なるので、両方の計算が必要。

  • 財務会計上の貸倒引当金と法人税法の貸倒引当金の両方を計算したうえで、法人税申告書で申告調整が必要。


そして、法人税上、損金算入が認められるのは、法人税法での限度額までです。

  • 財務会計上の繰入額が、法人税法上の繰入限度額を上回った場合、法人税申告書上加算減算する申告調整が必要です。

  • 逆に下回った場合、法人税法上、貸倒引当金繰入額は損金経理を要件としているため、繰入限度額を下回った分の金額については容認されません。


では、財務会計上、法定繰入率による貸倒引当金の計上が認められるかについて

  • 財務会計上の貸倒引当金と法人税法上の貸倒引当金は、その定義も計算方法も異なりますので、法人税法上の貸倒引当金を財務会計上で用いることは、エラーになります。

  • あとは、このエラーを許容するかの問題となります。

  • 一般引当の分はもう損金算入しなくてもいいんじゃないでしょうか(多分影響は少額だと思います)


上場会社(財務会計)の「貸倒引当金」に関連する会計基準等の紹介

参考までに、該当しそうな会計基準等を紹介しておきます。インターネットの一般検索でも手に入りますし、公認会計士協会のページで苦労しながら見つけることもできます。ただ、IPOに本気になったら「監査六法」を買ってください。

  • 金融商品に関する会計基準

  • 金融商品会計に関する実務指針

  • 金融商品会計に関するQ&A

会計基準等は、基本を解説している会計基準、実務適用できるように解説や設例を付けてくれている適用指針、さらにQ&Aがあります。本気になったら全部読んでください。

財務会計上の貸倒引当金の計算方法(概要)

債権の種類を三つに区分し、それぞれに異なる計算方法で貸倒引当金を計算します。

債権の三区分(一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等)

  1. 一般債権 経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権

  2. 貸倒懸念債権 経営破綻の状況には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているかまたは生じる可能性の高い債務者に対する債権

  3. 破産更生債権等 経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権


貸倒引当金の計算方法

  • 過去の貸倒実績率等合理的な基準 /対象債権額×貸倒実績率=貸倒引当金

  • 財務内容評価法 /対象債権額―回収見込額=貸倒引当金 ※1

  • キャッシュ・フロー見積法/対象債権額ー割引将来キャッシュフロー額=貸倒引当金


過去の貸倒実績率の算定方法

  • 金融商品会計基準に貸倒実績率の計算方法が設例として記載があります。

この計算方法は法人税での貸倒実績率の計算方法とは違うものです。もし、税務上の一般債権について貸倒引当金を申告するのであれば、会計上の貸倒実績率と法人税での貸倒実績率の両方を計算する必要があります。


会計基準の詳細な解説については当方のページでは割愛しています。

他の監査法人のホームページが信頼できて説明も丁寧のでそちらを見てください。「有限責任監査法人、会計基準、企業会計」等の検索ワードで、会計基準の解説ページに当たれると思います。


法人税法上の貸倒引当金の計算方法(概要)

貸倒引当金は、損金経理により繰り入れた金額のうち、次のそれぞれについて計算した繰入限度額に達するまでの金額が損金に算入されます。

  1. 個別評価する金銭債権に対する貸倒引当金

  2. 一括評価する金銭債権に対する貸倒引当金


  1. 個別評価する金銭債権に対する貸倒引当金

次の事由により、その事由が生じた期末の翌日から5年を経過するまでに弁済されることになっている金額以外の金額(担保権の実行等による取り立て等の見込みがあると認められる部分の金額を除く)。

    • 法令等による更生・再生計画等の認可の決定

    • 特別清算に係る協定の認可の決定

    • 債権者集会の協議決定で債務者の負債整理を定めているもの

    • 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの

    • 行政機関、金融機関その他第三者の斡旋による当事者間の協議により締結された契約でその内容が前号に準ずるもの

次の事由が生じている場合には、その金銭債権の2分の1に相当する額(担保権の実行等による取り立て等の見込みがあると認められる部分の金額を除く)。

    • 法令等による破産・再生手続等の開始の申立

    • 破産手続開始の申立

    • 特別清算開始の申立

    • 手形交換所等による取引停止処分

    • 電子記録債権法に規定する一定の電子債権記録機関による取引停止処分

債務超過の状態が相当期間継続しその営む事業に好転の見通しがないこと等の事由が生じている場合には、その金銭債権のうち、取り立て等の見込みがないと認められる金額。


2.一括評価する金銭債権に対する貸倒引当金

  • 一般の金銭債権等(個別評価対象以外の正常債権)に対して、貸倒実績率(実績率又は法定率)によって一括して評価する。



法人税の詳細な解説については、他のページを参照してください。監査法人のホームページが信頼できて説明も丁寧です。「有限責任監査法人、会計基準、企業会計」等の検索ワードで、会計基準の解説ページに当たれると思います。


会計実務での計算方法

会計実務の現場では、会計ソフトで算定出力するのではなく、下記のような種類の計算シートがExcelで作られていることが一般的です。

  • 貸倒実績率の計算シート

  • 債権の評価判断のシート

  • 貸倒引当金(貸倒引当金繰入額)の計算シート

  • 付属明細書に記載する引当金の増減表



上場会社特有の会計や内部統制に取組まなければならなくなった方向けに

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