IPO準備向け:上場会社の「税効果会計」をざっくりイメージで理解する

※ IPO準備及び検討中のご担当は こちらも ⇒ IPO準備の準備

会計基準にとりつく前に、ざっくりとしたイメージや前提知識、実務への影響をつかんでおくと効率的

上記がこのページのコンセプトです。なので、このページでは、会計基準等についての詳細な解説は行いません。

  • 公表されている会計基準は、ある程度以上の会計の実務経験があり、昨今の財務会計のトレンドを知っている人を前提に作成されています。

  • 実務経験も前提知識もない方であれば、会計基準を読み込むにも会計基準を使いこなせるようになるにも時間がかかります。

  • 逆に、少しでも、イメージをつかんでおけば、会計基準の理解や実務での対応がスムーズに行えます。

会計監査の現場経験をもとに、上場会社レベルの財務会計を前提に記載しています。

特にいきなり新たに上場会社レベルの財務会計を理解しなければならなくなった方のお役に立てれば幸いです。


会計基準の詳細な解説については、他のページを参照してください。監査法人のホームページが信頼できて説明も丁寧です。「有限責任監査法人、会計基準、企業会計」等の検索ワードで、会計基準の解説ページに当たれると思います。

税効果会計に関連する会計基準等の紹介

参考までに、該当しそうな会計基準等を紹介しておきます。インターネットの一般検索でも手に入りますし、公認会計士協会のページで黒しながら見つけることもできます。ただ、本気になったら「監査六法」を買ってください。

  • 税効果会計に係る会計基準

  • 税効果会計に係る会計基準の適用指針

  • 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針

会計基準等は、基本を解説している会計基準、実務適用できるように解説や設例を付けてくれている適用指針、ここにはありませんがさらにQ&Aがあります。本気になったら全部読んでください。



税効果会計は見積もり(会計判断)を伴う不安定な会計

繰延税金資産の計上時も見積もりが必要になります。

(仕訳)繰延税金資産/法人税等調整額(益)

繰延税金資産の取崩しにも見積もりが必要になります。

(仕訳)法人税等調整額(損)/繰延税金資産


計上時でも取崩し時でも、見積もり(会計上の判断)が必要というのが税効果会計の特徴であり

会計上の判断で、損と益が発生するというのが、税効果会計が不安定であるという理由です

税効果会計の負の影響

これだけは知っておいてください。税効果会計を適用していると、会社の業績が悪化してきている局面では、想定以上に税引後利益の悪化、純資産の低下が起きます。

ざっくり言うと、税効果会計で資産や利益に対してはかされていた下駄を取り上げられるようなものです。

ただでさえ業績が悪化しているのに、そこに予想外の会計上の損失がかぶってくるようなものですから、税効果会計は厳しい会計基準だと思います。


下記のような会計上の仕組みで起こります。

  • 会社の業績が悪化してくると「会社区分」がレベルダウンします

  • 「会社区分」がレベルダウンすると、今まで認められていた繰延税金資産という資産の計上が認められなくなります

  • そうすると繰延税金資産が取崩され、法人税等調整額(損)が生じ、資産と税引き後利益にマイナスの影響(減額)があります

  • これは会計上の処理であり、本業の業績悪化とは別にマイナスの影響を与えます


まずは、税金(法人税)の計算の仕組みを簡単に知ってください。

税金計算では、会計の利益に対して、いくつかの調整をしてから税金計算が行われます。

法人税の計算はざっくり言うと

  1. 企業会計で算定した税引き前利益に税務調整を行い所得を算定し、その所得に法人税率を乗じて法人税額を算定。

  2. 算定された法人税額にさらにいろいろな項目を加減算して納付する法人税額を計算します

  • 税引き前利益±税務調整(加算減算)=所得

  • 所得×法人税率=法人税額

  • 法人税額±税額控除等=差引確定法人税額


財務会計上のあるべき税金の額と税金計算で算定された税金額のズレ

上記で示した税務調整や税額控除等の税金計算上の調整があるため、財務会計で計算した税引き前利益に対してあるべき税金の額と税金計算で算定された税金額がズレることになります。

財務会計では、利益に対して算定される税金は、その利益の発生した期に計上した計上したいという基本的な考え方があります。

そこで、税務調整や税額控除等に対して今度は、財務会計上で調整計算を行います。その調整計算のことを「税効果会計」と言います


仕訳例を示すと下記となります。法人税等調整額は損益計算上の法人税等の下に記載され、文字通り法人税等に加減算されます。

  • 繰延税金資産 (資産) / 法人税等調整額(損益)

  • 法人税等調整額 (損益) / 繰延税金負債(負債)


税効果会計の説明として、一般的にはここまでで終わっていることが多いです。

でも、上場会社レベルとなれば、これでは終われないんです。ここからが難しい。

繰延税金資産の回収可能性の検討という次の段階があるんです。これが税効果会計を一気に難しくしています。

下記に解説していきます。細かいことは解説しません大きくイメージをつかんでください。


繰延税金資産の回収可能性の検討

上記の税効果会計の仕訳例に、繰延税金資産という勘定科目が出てきています。この繰延税金資産という科目、単なる税金費用の繰延用の調整勘定だったら楽なんですけど、そうではなくて資産として認められています。

今の財務会計上、資産については資産性が求められる部分しか計上しないという基本的な考え方があります。

この考え方が、税効果会計に強く適用されています。


ざっくり説明しますと

繰延税金資産というのは、来期以降に税務計算上損金に算入されることで、来期以降の税金を低くするというプラスの効果があるので資産としての計上が認められています。

なので、財務会計上、来期以降に損金に算入される可能性が高ければ、資産計上できて、可能性が低ければ資産計上できない(または取崩し)となります。


さて、来期以降損金算入されるか可能性の判断はどうすれはいいのか?

事業計画に基づいて、課税所得の計画(TAXプランニング表)をつくることが必要になります。

TAXプランニング表の作り方

  • 事業計画を入手する

  • 事業計画から利益の推移を把握し、税務調整や税額控除等を各期に当てはめていきます

  • これは、すべてざっくりした見積もりで行います

  • 「会社区分」により、何年先分までの繰延税金資産計上が認められるか、会計基準で決まっています。

TAXプランニング表を作ったうえで、税効果の会計基準に従って判断します。


繰延税金資産の回収可能性の検討では、下記のような点が大変になります。

  • 事業計画を入手しなければなりません(もしくは推定して作る)

  • 取引事実に基づく会計処理ではなく、将来の予想(見積もり)に基づく会計処理となるので経理での判断が求められる

  • 将来予想は不確実なところがあって当たり前としても。論理性やストーリをしっかり説明できなければならない

  • 業績悪化局面では、事業計画次第では会計上損益へのマイナスが入るかもしれないので、その点、事業計画策定部門に事前にお知らせ調整しておくことが非常に大事になります(ここを後手に回すと、修羅場、火事場になります)。



上記で説明した通り、税効果会計は2段階あります

  • 調整段階:税金費用の税務会計と財務会計のズレを財務会計に合わせるように調整する

  • 選別段階:繰延税金資産の回収可能性についてスケジューリングする

一般的な税効果会計での説明では、税効果会計とは会計上の利益に合わせた税金費用が計上されるように、『財務会計』と『税務会計』の違い(ズレ)を調整するための会計処理であるとの説明がなされますが、これだけでは足りません。

ズレの調整が済んだ後に、税効果会計で計上された繰延税金資産をどの程度まで資産計上を認めるか選別するというスケジューリングという2段階目の作業があります。ズレを調整する段階と、ズレの調整計上をすべて認めるわけでは無いという選別の段階があるということです。


調整段階:税務会計とのズレを財務会計で調整仕訳

税効果会計とは、会計上の利益に合わせた税金費用が計上されるように、『財務会計』と『税務会計』の違い(ズレ)を財務会計に合わせるように調整する財務会計での会計処理です。

  • 財務会計での特有の会計処理であり、税務会計ではちゃんと適用していないことが多い

  • 損益計算上は、税引き前利益より下、法人税及び住民税及び事業税の下に「法人税等調整額」として計上されます

  • 貸借対照表上は、「繰延税金資産」「繰延税金負債」として計上されます。

  • それぞれのズレ(一時差異)に法定実効税率を乗じて金額を算定します


(代表的なズレ(一時差異))

  • 賞与引当金

  • 退職給付引当金

  • 棚卸資産評価損

  • 会計だけ計上した投資有価証券の減損

  • 会計だけ計上した個別貸倒引当金

  • 未払事業税

  • 繰越欠損金


(法定実効税率の計算の仕方)

省略


この段階での計算は、税務申告書がちゃんとできていれば、税務申告書に必要な情報があるので、機械的に実行できます。

また、なれればそんなに難しくないので、半ば自動化できます。


選別段階:繰延税金資産の回収可能性の検討とスケジューリング

こちらは第一段階の調整段階と違い、多分に見積もりと判断が要求されており、難易度が上がります。


会社区分という考え方を知っておく

「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に会社区分のルールが記載されていますが、

ざっくり言うと、

  • 会社が過去数期間の課税所得や当期以降どれだけの課税所得を獲得できるかで、会社のランク付けをします。

  • 会社のランクによって、繰延税金資産の計上が可能となる期間の範囲や、一時差異が異なります。

  • 会社のランクが高ければ繰延税金資産の認められる金額が大きくなり、会社ランクが低ければ繰延税金資産の認めれられる金額は小さくなります。

  • 会社のランクは、毎期末見直しするので、ランクアップもあればランクダウンもあります。

  • ランクアップで繰延税金資産の積み増し、ランクダウンで繰延税金資産の取崩しが起きます。


会社の区分は、5つに分かれています。

  • 詳細な説明は省きます。実務指針か他の方のホームページを参照してください。


会社区分を決定したら、TAXプランニング表を利用して、どこまで繰延税金資産を計上すべきか確定します。


会計実務での計算方法

会計実務の現場では、会計ソフトで算定出力するのではなく、下記のような種類の計算シートがExcelで作られていることが一般的です。

  • 法定実効税率の計算シート

  • 会社区分の判定シート

  • 税効果の計算シート(仕訳用)

  • TAXプランニング表

  • 税効果注記検討シート



当方は、京都を中心に個人で活動している公認会計士です。

個人で活動している会計士は珍しいと思います。

興味を持たれましたらメインページもご参照ください。

他にも情報提供しているブログのリンクまとめも載せてます。

メインページ:IPO準備の準備