IPO準備向け:上場会社の「減損会計」をざっくりイメージで理解する
コンセプト:上場会社特有の財務会計の基準にとりつく前に、ざっくりとしたイメージや前提知識、実務への影響をつかんでおくと効率的
減損会計とは
固定資産の資産評価に関連する会計基準で
固定資産の簿価とその固定資産から将来獲得されるキャッシュフローの合計額を比較し、
固定資産の簿価がその固定資産から将来獲得されるキャッシュフローの合計額より低い場合、将来獲得されるキャッシュフローの合計額まで、固定資産の簿価を切り下げ、同額、減損損失を計上するという会計処理です。
固定資産の簿価(投資額残)> 将来獲得されるキャッシュフロー
固定資産への投資が将来回収できるか毎期見積もり計算で検証し、検証の結果、将来回収見込のない部分については資産性はなくなったから当期に損失計上すべきとという考え方に基づきます。
減損会計が企業経営に与えるマイナスの影響とプラスの影響(デメリット、メリット)
1)マイナスの影響
本業で営業利益の減少がある場合、会計上の見積もり判断で減損損失という特別損失を計上しなければならないことがある。
営業利益が減少している局面で、営業利益の減少以上に当期利益にマイナスの影響を与えることになる
2)プラスの影響
不採算店舗や、不採算事業に対して会計から早期に警告を発してくれる
事業計画を作る能力があることが減損会計の大前提
減損会計では減損検討の対象になった固定資産が将来どれだけのキャッシュフローを稼ぎ出す予定が見積もり計算する必要があります。
将来獲得キャッシュフローは事業計画から算定するので、事業計画が策定できることが大前提となります。
実務の現場では、事業計画の策定が遅れることがまま見られます。
減損損失は特別損失
減損損失は特別損失と簿価の切り下げ
減損損失の戻しは認められていません(時価評価なく、投資損失の位置づけ)
重要な特別損失がある場合、注記も必要になります。
減損会計の対象となる固定資産
固定資産の部に計上されている資産が対象になります(他の基準で減損処理の定めがあるもの除きます)
有形固定資産としては、土地、建物、建物付属設備、構築物、機械装置、建設仮勘定などすべてが対象となります。
無形固定資産としては、のれんや借地権など
投資その他の資産としては、投資不動産や長期前払費用など
投資その他の資産の投資有価証券や関係会社株式は金融商品会計基準で別に減損の定めがあるので、対象になりません。
賃貸借処理の所有権移転外ファイナンスリースは対象となります。
減損会計の計算の特徴
減損会計の計算は、絞込の段階があります。
減損の兆候の有無で絞込をかけます。減損の兆候がある対象資産のみ、次の減損損失の認識の検討に進みます。
減損会計の計算フローは以下の表をご参照ください。
減損会計と鑑定評価
不動産、特に土地を持っていると、不動産鑑定評価を取ってほしいと監査法人から言われることがあります。
前提として、対象固定資産の売却価額も、将来獲得キャッシュフローに含まれます。これは、将来獲得キャッシュフローを見積もるためには、対象固定資産がいくらで売れるのかを見積もる必要があるということを意味します。
減損損失の金額が多額になると推定される場合、いくらで売却可能なのかを見積もる場合により高い証拠力のある資料が必要になることから、場合によっては不動産鑑定評価が必要といわれることがあります。
不動産鑑定評価の入手はかならずしも必須というものではありません。
減損損失の見積計算の精度をどの程度にするかという問題であり、金額が多額になるほど、高い精度が必要になります。
減損損失金額が少額であれば、不動産鑑定評価を取るまでは必要ないと判断されます。
毎期、不動産鑑定評価を取らなければならないというものではありません。
著しい時価の下落があるかどうかの判断の際に、鑑定評価をとることはあまりありません。一般には著しい時価の下落はあることが分かっており、減損損失を確定する場面で鑑定評価をとることが多いです(不動産鑑定評価は相当のお金がかかるので)
減損会計のグルーピング
減損会計の適用に当たっては、まずは、個別資産をグルーピングします。
グルーピングは概ね独立したキャッシュフローを生み出す最小の単位とで行うとされています。
キャッシュフローを生み出す固定資産が、一つであれば、個別資産のままでいいですが、複数の組み合わせによりキャッシュフローを稼ぎ出す場合にはグルーピングします。
一つの資産であったり、複数の資産で構成されたりします。
事業単位や支店、工場、本社といったように様々なグルーピングがあります。
社内振替価格といった社内でのキャッシュフローもキャッシュフローとして認識します。
事業用資産、賃貸資産、共用資産、遊休資産という大きな区分で分けた後に、グルーピングを考えるとやりやすいです。
本社機能は通常、共用資産扱いになります。
会計基準上明記されているわけではありませんが、減損会計を適用するうえでは、会社の経営意思決定に整合した形でのグルーピングを設定することが望まれます。
減損会計と法人税の申告調整
法人税法では、減損損失は、減価償却費扱いされます。
減損損失は減価償却費扱いされるので、通常の減価償却費と減損損失の合計額が税務上の減価償却限度額までは税務上の損金算入として取り扱われ、減価償却超過額については、別表四において加算調整されます。
実務上、
減損損失発生年度では、減価償却費は税務上の減価償却限度額と一致するように計上されていることが通常ですので、それ以外に発生した減損損失の金額がそのまま別表四にて加算調整されています。
翌年度から、財務会計での減価償却費と税務上の減価償却費との差額分を、別表四にて認容していくことになります。
減損会計に関連する会計基準等の紹介
固定資産の減損に係る会計基準
固定資産の減損に係る会計基準の適用指針
会計実務での計算方法
会計実務の現場では下記の計算エクセルシートと、減損会計に対応した償却計算ソフトで管理されています。
減損損失の判定算定シート
減損兆候の判定シート、減損損失の認識判定シート、減損損失の計算シート
所有土地の簿価と時価の比較シート
減損会計の注記用の情報シート
減価償却の計算ソフト
法人税上の減価償却計算と会計上の減価償却計算の両方ができる償却計算ソフトを使うことが一般的です。