IPO準備のプロジェクトマネジメントのコツ

いわゆるガントチャートやWBSといったタスクベースの作業の話ではなく、その前提となる、プロジェクトマネジメントを実施する前のコツみたいな考え方について説明しています。

とにかく経営者の権威をフル活用する

管理部長に任せておけば大丈夫などと経営者に丸投げされないようにすることが大事です。

①会社業務の末端まで、本当に経営者、役員、従業員全員に意識、行動を変えてもらう必要があります。

②営業部や製造部などに意識、行動を変えていただく必要があります。つまり営業担当役員や製造担当役員にもご協力いただく、それも、積極的に責任分担いただくほど強くご協力いたただく必要が出てきます。その時に管理部担当役員の立場での横からのお願いではうまくいかないのではないでしょうか、ここは社長に出てきてもらうのが一番では。

③経営者の本気度が伝わらないと、誰も動いてくれない

経営者をプロジェクトオーナーとして、役員をプロジェクトメンバーとしたプロジェクトにしてしまい。強制的に役員陣、経営者の協力、責任負担を獲得するのが良い手です。


◆とにかく課題と現状を見せる

上場準備なんて初めてのことです。クリアしなければならない課題をすべて把握することが出来ないうえに、課題の難易度を見誤ることが普通です。

トラブルを抱え込んだままにしないためには、クリアすべき課題と進捗状況、課題のクリアに困っている状況をあからさまに開示し、経営者、役員陣の支援を確保しましょう。あいつに任せといたら大丈夫だろうなどと思わせないで、助けてやらないとうまくいかないだろうと思わせてください(実際そうなんですから)。


◆IPO準備での過大なロスの発生を防止する知恵

①課題を一覧化する、②基礎から順に積み上げる、③同時進行を極力避ける


①課題は大変多いので、全体を一覧で把握しないと課題すべてをクリアできません。

IPO準備の時期に会計を含めた内部管理能力を上場会社レベルに引き上げなければなりませんが、そのためにクリアすべき課題は以下の表のように多くあります。

指摘を受けた順やチェックリストでひっかかった順で、順次課題を増やしていては、すべての課題解決は不可能になります。詳細なものでなくても、上場申請が可能になるまでの課題を網羅的に一覧で把握する(マッピングする)ことから始める必要があります。



②取組順番は、応用問題からではなく、基礎から順に積み上げる順番で実施する。

上場準備を始めると、上場審査書類(Ⅰの部、Ⅱの部)の作成や新規上場ガイドブックの事前チェックリストの完了ができるかという表面的な対応を優先して行うことが多くみられます。なぜなら、監査法人や主幹事証券はまさにこの点について監査やアドバイスすることが業務の内容だからです。

でも、この取組順番は誤りです。例えるなら基礎体力もないのに、新技の練習ばかりをするのに似ています。たとえ、新技ができるようになったとしても、基礎ができておらず不安定なため、その後の変化に耐えられません。

IPOする会社ができるようにならなければならないことは、上場審査書類(Ⅰの部、Ⅱの部)の作成や新規上場ガイドブックの事前チェックリストの完了ではなく、上場後も継続して経営資源となるような内部管理能力の向上です。

内部管理能力はピラミッド型しており、基礎から順に積み上げていくことで、強固に向上していきます。上記の表で言うなら、土台となる基礎的な会計、資産管理といったところから順に強くしていくことが大事になります。例えば、債権管理や債務管理という基礎がしっかりしてからでないと、月次決算を適時に完了させることはできません。

もし、IPOスケジュールを延長することがあった場合、基礎の強化から取り組んでいれば、内部管理能力が向上したという成果が残りますが、応用のようなところから取り組んだ場合、何も残らなくなります。

また、いろいろな規程を設けなければならないと言われて、規程づくりを優先して進めることもよく見られますがこれもロスが大きくなります。そもそも、実務での仕組みの運用ルールが改善できていないのに、規程を設けても、規程と実際の運用が乖離します。そのせいで、規程の修正を何回行っても終わらないということが起こります。実際の運用ルールを改善することを優先し、規程の作成は最後!というくらいのほうが望ましいです。



③同時進行は極力避けて、順番に一つ一つ小さく完了させていくほうが結果としてロスが少なくなります。

確かに、やるべき項目が明らかになったなら、各担当に割り振ってしまって、同時進行で各自完了していけば早く終わるように思えます。

ただ、同時進行のやり方だと、早く終わるどころか、何も完了しないということもあり得ます。

なぜなら、同時進行では、各担当が仕事を終えてからチェックがはいるので大きな手戻りが生じやすいこと、各担当の仕事の質のレベルを整合させていくという調整作業が必要になること、手戻りと調整を繰り返して全体が完了するまで各担当の仕事も完了しないことが起こるからです。

また、同時進行だと、各担当は通常一人で割り当てられた項目に取り組むので、悩んでしまっている時間も心理的にロスになりやすいです。

やるべき項目が明らかになったら、取り組む順番を決めて、チームでやるべき項目を順に一つずつ完了させていくほうがロスは少なくなります。

なぜなら、心理面で、一人で悩まず相談しながらできるのでモチベーションは上げやすく、小さなバッチが完了することで達成感を感じやすいからです。また、小さなバッチでチームで取り組んでいけば、チームでの経験を共有していくことができ、仕事の出来の調整と手戻りを減らすこともできます。

同時進行は極力さけて、順番に一つ一つをチームで解決していく方が物理的にも心理的にもロスは少なくなります。




◆プロジェクトマネジメントの知恵

プロジェクトの進捗管理表は大きく作って、管理部長の後ろに貼り出すべし


プロジェクトの進捗管理表は、パソコンの中や共有フォルダの中に入っていると、埋もれてしまって特定の人しか見なくなるか、誰も見なくなって、更新がされなくなります。

プロジェクト進捗管理表は、大きく作って貼り出して、皆に常に見せつけるようにして、IPOプロジェクトの存在をアピールしましょう。

進捗が順調ならそれでよし、進捗がはかどらなくなってきたらきたで状況を理解してくれている周りからの協力が得やすくなります。どうせ、皆の協力なしには完了できないのですから、積極的に弱音も見せていきましょう!