製販区分の精緻化と原価計算

◆財務会計での原価計算はできていないでしょう

IPO準備を始めた場合、よくある課題として原価計算があげられます。

ここでは、原価計算とは、在庫(製品、仕掛品)の会計上の金額を確定する計算のことを意味します。

税理士さんにも見てもらっているので、会計はできていると思われている経理担当者が多いのですが、通常、まったくできていません。いわゆる税務申告用の会計では、一般開示用の財務会計ほど精緻な会計は求められていないので、する必要がないからです。税務会計と財務会計では、7割ぐらい違うなという感覚です。


◆原価計算ができるようになるには

①まず、費用を製造費用と販売費及び一般管理費に精緻に区別できていることが必要です(製販区分、費目別分類)。

②次に、製造費用のうち、どれが製品単位に直課できる費用か、製品単位に直課できないので配賦計算しなければならない費用か区別できていることが必要です。

③さらに、配賦対象となった費用をどのような配賦ロジックで配賦するか配賦基準が明確になっていることが必要です。

④配賦計算に使う業務数値を適切に集計できていなければなりません。


◆原価計算のひな形は手に入るか

①個別具体的な原価計算ロジックは手に入らない

実務担当者が期待するような自分の会社にすぐ使えるような原価計算ロジックは、一般には出回っていません。なぜなら、原価計算は事業や生産の仕方などで千差万別だからです。

②基本的な原価計算ロジックしか手に入らない

『原価計算基準』に公表されているものが基本的ロジックになります。発生費用を費目別に細分化し、製造費用を明確に分けて、製品単位に直課、何らかの業務数値に基づき配賦計算するというものです。

③基本的な原価計算ロジックを守っていれば、自由度は高い

原価計算は会計基準で細かいルールが決められていないので、基本的ロジックさえできていれば、会社独自決めることが出来ます。


◆管理会計での原価計算

①経営が高度化していくと、どの製品がもうかっているか知りたくなります。

財務会計での原価計算へのリクエストは、在庫総額(製品総額、仕掛品総額)が正しければいいという、ある意味ざっくりしたものです。

これに対して、経営目的の管理会計では、できれば製品別に原価が判明し、どの製品がどれだけ会社に儲けをもたらしているか、逆にどの製品が損を発生させているか知りたくなります。


原価計算をどれだけ精緻化するかは、会社独自で決めることができます。

原価計算の合理性さえ確保すれば、原価計算ロジックは会社独自で決めることが出来ますので、経営者からリクエストがあれば、原価計算の精緻化に取り組んでいただいたくことに財務会計上は問題はありません。



IPO準備にはいると、税務会計から財務会計への移行に取り組みます。その際、高度な会計の、減損会計や税効果会計から取り組むことがありますが、それは、順番が逆です。それらの会計は基本的な情報あれば外部委託でも対応することが出来ます。

それよりも、もっと会計の基礎的な部分、仕訳レベルでの製販区分、原価計算、経過勘定の整理、月次決算の早期化といった地味なうえに、整備まで時間がかかり、外部委託に頼ることが出来ないところをしっかりと固めることが肝要だと思います。

さらに、月次決算をしっかりできるようになったうえで、事業計画を立てれるようになることが大事です。