2-19 財務:グループファイナンスの目的と事例

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グループファイナンスの成果は?

グループファイナンス(キャッシュマネジメントシステム)の仕組みを導入するとして、そのゴールは何ですか?

グループの各会社で別々に実施していた、資金調達、運用をグループでまとめて実施することで、効率化し、グループ内に資金をより多く残せるようにすることと私は考えています。

だから、グループ内でまかなえる資金需要はグループ内の会社で互いに融通しあい、グループ全体として、外部からの資金調達(外部借入、出資)を減らすことができれば、グループファイナンスは効果があったと考えます。

外部からの資金調達には、必ず付随してキャッシュアウトがあります。

  • 銀行借入であれば、借入利息。

  • 出資を受けたなら、支払配当。

  • リースを受けたなら、リース金利。

外部からの資金調達を減らすことにより、これらのキャッシュアウトを減らすことができます。

グループファイナンスの事例

さて、グループファイナンス(キャッシュマネジメントシステム)の事例についてですが、

・外部資金調達を各社別に実施しているか、親会社だけで実施しているか

・グループ内で資金余剰を各社別にもつか、親会社に集めるか

の二つの視点で、分けることができます。

①資金調達は各社が実施し、余剰資金がある会社が足りない会社に個別貸し付ける

貸し付けるときはプライムレートもしくは親会社の銀行借入金利に0.?% 上乗せした金利で貸し付けを行います。

このパターンは、外部借入ができない会社を救済する意味合いが強く、資金調達の効率化にはつながっていません。銀行から借りれないから、グループ会社に泣きついた形になることが多く、貸付を受ける会社の財務状況や金利条件はかなり悪いことになっていることが多いです。


②資金調達は各社が実施し、子会社の余剰資金は配当により吸い上げられる。

このパターンは多くみられます。一見、効率的に資金が親会社に集中するように見えます。

が、

子会社は、配当を出したくないので儲けを隠すようになります。子会社の立場からは、配当支払からは何も儲けが得られませんし、また、いざ配当して、お金が必要になったときに資金調達で苦労するのは自分だからです。そうなると社内の福利厚生費等にお金を使ってしまうなど必要のない経費を使うなど、かえって経営効率を下げてしまいます。


③資金調達は親会社に一本化し、余剰資金は各社でプールしている。

このパターンは無いですね。資金のコントロールが煩雑になりますし、グループの子会社全部の社長に影響力を発揮できるスーパーCFOの存在が必要になるからです。


④資金調達は親会社に一本化し、余剰資金は親会社でプール。余剰資金のある子会社は配当ではなく親会社に貸付を行い金利を受け取る。足りない会社は親会社に金利を支払って借入を行う。

親会社からの貸付金利は、銀行からの借入より低いこともあれば、逆に高いこともあります。

グループ内での資金移動の頻度としては、定期的に毎月末行っていることもあれば、年に何回か行なっていることもあります。後者の方がより緩やかと言えるでしょう。

また、頻度に合わせて個別に契約をすることもあれば、包括契約にすることもあります。

親会社に資金を集めることにより、グループ資金を効率的に管理できるようになりますし、親会社は外部金融機関に対して強い交渉力を持つことができます。

キャッシュアウトを最も減らせる方法と言えるでしょう。


シェアードサービスという選択肢

「常に親会社に資金調達も資金余剰も集める体制にしなければいけないのか?」

というと、そうでもありません。

親会社ではなく、子会社を中心に据えた方法もあります

このグループはすごいな(というより、これを導入されたCFOはすごいな)と思った例を紹介します。

このグループでは、経理財務のアウトソージングを受ける子会社を作り、そこに親会社も含めたグループ会社の経理財務機能を徐々にすべて集約されたのです。

このやり方により、

・グループ内すべての経理財務を掌握し、

・影響範囲はグループファイナンスにとどまらず、

・グループへのガバナンスを格段に強くするということを

・親子という潜在的な対立関係を躱しながら実現されたことになります。


高度な管理システムは必須か?

また、高度なシステムは必要か?とも聞かれますが

各社の資金を把握するためには、高度なシステムや共通会計システムが必要だと思われるかもしれません。

確かに、システムはあったほうが便利なのですが、

実務上、グループファイナンスの仕組みが定着するまでは、excel手管理で行われていることが多いです。要は、資金の余剰と不足を報告させることができればいいのです。


契約や管理が煩雑なのでは?

契約等の様式や管理の仕方が高度で複雑なのでは?とも聞かれます。


契約については、所詮グループ内取引です。

後で訴訟になることも考えられませんので、契約書も管理の仕組みもごく簡単なものとなっています。具体的には契約書は簡単なA4用紙に5行から10行くらいで書かれたレベルで、銀行借入契約書に比べてみると非常にシンプルです。


管理も、担当者がexcel手管理できるほどのところもあります。

何十社もあるところは銀行系の資金移動システムを使っているところもあります。システム投資費用が見合うならシステム活用もいいと思います(特にトラブルは聞いてません)。


金利設定はどうなっているの?

金利設定はどうなっているの?

ちなみに金利は、親会社の調達レートか市場でのプライムレートに0.何パーセントか上乗せして、グループ内での調達金利が一般より有利にならないようにされています。

(寄附金にならないようにしているのか、戦略的意図なのかは、その企業グループにより異なると思います。)



各社別の資金調達、運用を、グループ全体にまとめてしまうことで、重複のムダを取り除くことができます。グループファイナンスの検討は、財務からでも、グループ経営の効率化を始めることができるといういい事例ですね。


次は、シェアードサービスについても触れています。

2-21 財務:シェアードサービス と グループファイナンス

<関連ブログ>

2-08 財務:グループファイナンスを検討してみる

2-21 財務:シェアードサービス と グループファイナンス


他にも会計士ならではのノウハウをまとめています、お役に立つものがあるかもしれません。

blog①:公認会計士のノウハウ